
JR東海が「リニア中央新幹線」を建設する最大の理由として、一般的には東海道新幹線の老朽化対策と、将来の大規模修繕に備えるためと説明されている。
東海道新幹線は1964年の開業以来、すでに60年以上が経過した。今後、橋梁やトンネルなどの大規模修繕が必要になる可能性がある。
しかし、東海道新幹線は日本最大級の輸送量を持つ路線であり、午前6時頃から深夜まで列車が運行されている。長期間にわたって線路を閉鎖し、大規模な改修工事を行うことは現実的に難しい。
そこで、東京・名古屋・大阪を結ぶ第二の大動脈を建設し、東海道新幹線とリニア中央新幹線の二重系ネットワークを形成するというのが、公式に説明される最大の目的だ。
しかし、果たしてそれだけが理由なのだろうか。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 路線名 | リニア中央新幹線 |
| 事業主体 | JR東海 |
| 方式 | 超電導リニア(磁気浮上方式) |
| 営業最高速度 | 約505km/h |
| 距離 | 品川~名古屋 :約286km 名古屋~新大阪:約152km 東京~大阪 :約438km |
| 所要時間 | 品川~名古屋 :40分 名古屋~新大阪:27分 東京~大阪 :67分 |
| 品川~名古屋開業 | 2036年以降(予定) |
| 名古屋~新大阪開業 | 2045年頃を目標(今後変更の可能性あり) |
リニア中央新幹線の最大の魅力は、圧倒的なスピードである。
品川駅から新大阪駅までの所要時間は、計画上は約67分だ。
一方、東京駅から品川駅まで移動し、さらに品川駅でリニアに乗り換える必要がある。
東京駅から品川駅までは山手線などで約10分。さらに、地下深くに設置されるリニア駅までの移動や乗り換え時間を考えると、10分前後は見ておく必要がある。
つまり、単純に考えても、
東京駅→品川駅:約10分
品川駅での乗り換え:約10分
品川→新大阪:67分
となり、東京駅から新大阪駅までの実質的な所要時間は約87分となる。
さらに、駅構内の移動時間を含めれば、90分を超える可能性もある。
一方、仮にリニア中央新幹線とほぼ同じルートに、平均時速300km程度の次世代新幹線を建設した場合はどうなるだろうか。
東京駅から新大阪駅まで約450kmと仮定すると、単純計算では所要時間は約90分となる。
つまり、
リニア:乗り換えを含めると約87~97分
次世代新幹線:東京駅から新大阪駅まで約90分
となり、利用者の実際の移動時間では大差がなくなる可能性がある。
もちろん、実際の所要時間は加減速性能や停車時間、線形などによって変わる。しかし、「リニアなら67分、新幹線なら大幅に遅い」という単純な比較だけでは判断できない。
特に利用者にとって重要なのは、列車の乗車時間ではなく、出発地から目的地までの総移動時間である。
リニア中央新幹線について、もう一つ大きな問題がある。
それは、輸送力だ。
リニアの16両編成は約1,000席とされる。一方、現在の東海道新幹線「のぞみ」の16両編成は約1,323席だ。
さらに重要なのは、列車の運行本数である。
| 交通機関 | 座席数 | 1時間当たり片道便数 | 1時間当たり片道輸送人員 | 車両数 |
|---|---|---|---|---|
| リニア | 約1,000人 | 速達型4本 | 約4,000人 | 16両 |
| 新幹線「のぞみ」 | 1,323人 | 最大12本程度 | 約15,876人 | 16両 |
単純比較すると、リニア速達型の断面輸送力は、「のぞみ」の約4分の1程度となる。
一般的には、リニア開業後、
リニア=東京・名古屋・大阪を結ぶ超速達輸送
東海道新幹線=「ひかり」「こだま」など中間駅への輸送
という役割分担が想定される。
しかし、東京~大阪間という巨大な輸送市場を考えれば、リニアの輸送力だけで「のぞみ」の役割を代替することは難しい。
むしろ、リニアが開業しても、東海道新幹線の高速・大量輸送能力は引き続き重要になるだろう。
建設費についても、大きな疑問がある。
2021年4月、JR東海は品川~名古屋間の総工費について、従来の約5.5兆円から約1.5兆円増加し、約7兆円になると発表した。
さらに、新大阪まで全線延伸する場合、総工費は約10兆円を超える規模になる。
一方、次世代型の高速鉄道として時速300km級の新幹線を建設する場合、既存の新幹線技術を活用できる可能性が高い。
当然、都市部や山岳部では大規模なトンネル建設が必要になるため、安価とは限らない。
それでも、超電導リニアという特殊なシステムを新たに建設・維持するよりも、既存の新幹線技術を発展させる方が、車両、電力、保守、運行ノウハウなどを共通化できるというメリットがある。
リニアは時速500kmで走行する。
しかし、速度が上がれば空気抵抗は急激に増加する。
そのため、リニアは新幹線と比較して電力消費量が大きくなると考えられる。
当ブログでは、イメージとして以下のように試算している。
| 交通機関 | 東京~大阪間のCO2排出量 | 1座席当たりの電気代・燃料費 |
| 新幹線 | 1倍 | 200~300円 |
| リニア | 約3倍 | 600~900円 |
| 飛行機 | 約20倍 | 約1,000円 |
※当ブログ試算。実際のエネルギー消費量やCO2排出量は、電源構成や乗車率などによって変動する。
仮にリニアの運賃が「のぞみ+数百円~1,000円程度」にとどまる場合、その追加料金の多くが電力費の増加分で消える可能性もある。
つまり、巨額の建設費を回収するための収益構造としては、決して余裕があるとは言えない。
リニアの最大の問題は、巨額の初期投資だ。
仮に名古屋まで約7兆円、全線で10兆円を超える投資を行う場合、その投資をどのように回収するのか。
当ブログでは、鉄道設備全体の平均的な耐用期間を仮に50年程度とし、単純な定額償却として試算した。
区間 建設費 年間減価償却費の試算
品川~名古屋 約7兆円 約1,400億円
品川~新大阪 約10.5兆円 約2,100億円
もちろん、実際の会計処理や設備ごとの耐用年数はこれより複雑であり、この数字は単純試算である。
それでも、毎年1,000億円~2,000億円規模の減価償却負担が発生する可能性を考えれば、リニア単体で巨額の利益を生み出す必要がある。
ところが、リニアは輸送力が新幹線より小さい。
運賃も極端に高く設定すれば利用者が減少する。
つまり、
建設費は非常に高い
輸送力は新幹線より小さい
電力消費量も大きい
運賃を大幅に上げることも難しい
という構造になる。
このため、リニア中央新幹線を「単独の鉄道事業」として考えた場合、採算性には大きな疑問が残る。
ここからが、当ブログの考察である。
結論から言えば、
リニア建設の本当の目的の一つは、「第2東海道新幹線」の建設を防ぎ、JR東海が東海道輸送市場の主導権を維持することではないか。
と考えている。
JR東海は、JRグループの中でも非常に特殊な会社である。
在来線の営業エリアは主に東海地方に集中している。
一方、JR東海の収益の中心は、東京・名古屋・大阪という日本最大の経済圏を結ぶ東海道新幹線だ。
つまり、JR東海にとって東海道新幹線は単なる路線ではない。
会社そのものを支える最大の収益源である。
もし将来、政府主導で東京~大阪間に「第2東海道新幹線」が建設されることになったらどうなるだろうか。
当然、東京駅や新大阪駅への乗り入れを考えれば、JR東日本、JR東海、JR西日本が共同で関与する可能性が出てくる。
そうなれば、新しい東京~大阪間の高速鉄道市場を、JR東海が単独で支配することはできなくなる。

当ブログでは、仮に東京~新大阪間に第2東海道新幹線が建設され、JR3社が線路の担当区間に応じて収益を分配すると仮定した。
| 会社 | 担当区間のイメージ | 距離 | 比率 | 売上高の試算 |
| JR西日本 | 新大阪~米原 | 約100km | 約23% | 約2,760億円 |
| JR東海 | 米原~甲府 | 約220km | 約50% | 約6,000億円 |
| JR東日本 | 甲府~東京 | 約120km | 約27% | 約3,240億円 |
※当ブログによる単純試算。
仮に新しい高速鉄道の年間売上高が約1兆2,000億円だった場合、JR東海の取り分は約6,000億円程度になる。
これに対して、リニアをJR東海が全線単独で保有・運営できれば、売上高の大部分を自社に取り込むことができる。
当ブログ試算では次のようになる。
| JR東海 | 新幹線3社共同運行 | リニアをJR東海単独運行 |
| 売上高 | 6,000億円 | 1兆2,000億円 |
| 利益 | 3,000億円 | 6,000億円 |
| 減価償却費 | ▲1,000億円 | ▲2,100億円 |
| 償却後利益 | 約2,000億円 | 約3,900億円 |
※すべて当ブログによる仮定に基づく試算。
この仮説が正しければ、JR東海にとって重要なのは、リニアそのものの採算性だけではない。
「東京~大阪間の第2ルートを、他社との共同運営にさせないこと」自体に大きな経営上の価値があることになる。
ここで、一つの仮説が浮かび上がる。
もしJR東海がリニアを建設しなかった場合、将来的に政府が、
「東海道新幹線の老朽化に備え、新たな東京~大阪間の高速鉄道を建設すべきだ」
と判断する可能性がある。
その場合、技術的には既存の新幹線を発展させた「時速300km級の第2東海道新幹線」が有力な選択肢になるかもしれない。
しかし、リニア中央新幹線がすでに建設中であれば、政府が同じ東京~大阪間に、さらに新たな高速鉄道を建設する理由は弱くなる。
つまり、リニアの存在そのものが、
「第二の東京~大阪高速鉄道路線は、すでにJR東海が建設中です」
という既成事実になる。
当ブログでは、これこそがリニア建設の重要な意味の一つではないかと考える。
仮にリニア事業そのものが大きな利益を生まなかったとしても、JR東海全体で考えれば意味がある可能性がある。
なぜなら、リニアを建設することで、
第2東海道新幹線の建設を阻止する
↓
東京~大阪間の高速鉄道市場への他社参入を抑える
↓
東海道新幹線とリニアの巨大市場をJR東海グループが主導する
という戦略が成立する可能性があるからだ。
この視点で見ると、リニアは単なる「新しい鉄道」ではない。
JR東海にとっては、将来の競争環境を決定づける巨大な戦略投資なのかもしれない。
リニア事業では、JR東海は巨額の政府財政投融資を利用している。
| 借入 | 借入金 | 利率 | 年間金利の試算 |
| 第1回 | 5,000億円 | 0.6% | 30億円 |
| 第2回 | 5,000億円 | 0.8% | 40億円 |
| 第3回 | 5,000億円 | 0.9% | 45億円 |
| 第4回 | 7,500億円 | 0.9% | 67.5億円 |
| 第5回 | 7,500億円 | 1.0% | 75億円 |
| 合計 | 3兆円 | 平均約0.86% | 約257.5億円 |
当ブログの整理では、3兆円については長期の返済猶予があり、当面は比較的低い金利負担で資金を調達できる構造になっている。
年間約260億円程度の金利負担であれば、JR東海の巨大な利益規模から見れば、直ちに経営を圧迫する水準とは言い切れない。
このため、
「早期開業しなければ経営が危ないから、何としても急いで完成させる」
という状況ではない可能性もある。
静岡県との協議などにより、リニア中央新幹線の開業時期は大幅に遅れる見通しとなった。
しかし、仮にJR東海にとってリニアが「単独で巨大な利益を生む事業」ではなく、
東海道新幹線を補完する第二ルートの確保
第2東海道新幹線の建設阻止
東京~大阪間の高速鉄道市場の主導権維持
という戦略的な意味を持つ事業であれば、開業が数年遅れたとしても、その戦略目的はすぐには失われない。
むしろ、リニアが「建設中」であり続けるだけでも、他の新規高速鉄道計画が進みにくくなる可能性がある。
極端に言えば、JR東海にとって重要なのは、
「いつ完成するか」だけではなく、「他社による第2東海道新幹線を建設させないこと」
なのかもしれない。
関西の視点から見れば、さらに重要な問題がある。
それは、リニアが名古屋まで開業しても、新大阪までなかなか延伸されない可能性だ。
当初計画では、品川~名古屋を先行開業し、その後に名古屋~新大阪を建設する構想だった。
しかし、品川~名古屋間の工事が大幅に遅れれば、新大阪延伸も当然遅れる。
JR東海の経営戦略という視点だけで考えれば、名古屋までリニアを建設し、
東京~名古屋の高速輸送市場を確保する
だけでも、一定の目的を達成できる可能性がある。
一方、関西にとっては、
「東京~名古屋だけが67分で結ばれ、名古屋~大阪は従来の新幹線のまま」
という状況は望ましくない。
リニアの恩恵を最大化するためには、名古屋~新大阪間を確実に整備する必要がある。
当ブログとしては、将来的にはJRグループ全体の経営体制も含めて、より広域的な再編を検討すべきだと考える。
一つの極論としては、
JR東海 → JR東日本・JR西日本との統合・再編
JR北海道 → JR東日本との統合
JR四国・JR九州 → JR西日本などとの広域的な統合・連携
といった形で、人口減少時代に対応した経営体制を構築することも考えられる。
その上で、名古屋~新大阪間については、リニアだけを唯一の選択肢と考えるのではなく、
時速300km級の次世代新幹線
という選択肢も本格的に比較・検討すべきではないか。
新幹線であれば、東京駅や新大阪駅に乗り換えなしで乗り入れることができる。
さらに将来的には、
東京~岡山
東京~広島
などへの直通輸送時間を短縮できる可能性もある。
利用者の利便性、輸送力、既存ネットワークとの接続性を考えれば、リニアとは異なる大きなメリットがある。
リニア中央新幹線は、日本の鉄道史上、極めて大きなプロジェクトだ。
しかし、単純に、
「リニアは速いから建設する」
だけでは、約10兆円を超える巨額投資を十分に説明することは難しい。
当ブログでは、JR東海がリニアを建設する背景には、
① 東海道新幹線の老朽化に備える
② 東京~大阪間の二重系ネットワークを確保する
③ 大規模災害時の代替輸送ルートを確保する
④ 東京~名古屋・大阪間の移動時間を短縮する
⑤ JR東海が東海道高速鉄道市場の主導権を維持する
という複数の目的があると考える。
そして、当ブログ独自の最大の仮説は、
「リニア建設は、JR東海が将来の第2東海道新幹線を他社と共同で運営する事態を避けるための戦略でもあるのではないか」
という点だ。
もし将来、JR東日本・JR東海・JR西日本の3社による第2東海道新幹線が建設されれば、JR東海は現在の東海道新幹線のような圧倒的な収益基盤を維持できなくなる可能性がある。
一方、リニアをJR東海が主体となって建設すれば、東京~大阪間の高速鉄道市場における主導権を維持できる。
この視点に立てば、リニアは単なる交通インフラではない。
JR東海の将来の経営そのものを守るための巨大な戦略投資
なのかもしれない。
ただし、関西側は「リニアなら何でも歓迎」と考えるべきではないだろう。
本当に新大阪まで延伸されるのか。いつ完成するのか。建設費はどこまで増加するのか。そして、リニアよりも輸送力やネットワーク接続性に優れた次世代新幹線という選択肢はないのか。
関西の自治体や経済界は、JR東海の公式説明だけでなく、事業の経済性や将来の鉄道ネットワーク全体を冷静に検証した上で、リニア中央新幹線への協力のあり方を判断する必要がある。
