ロピア大阪ベイタワー店(弁天町)
関東系スーパー「オーケー」は、関西スーパーとH2Oリテイリングとの経営統合について、関西スーパーの株主総会での集計に疑義があったとし、神戸地裁に統合差し止めの仮処分を申し立てていた。
2021年11月22日、神戸地裁は「関西スーパーとH2Oリテイリングとの経営統合の差し止めの仮処分」を決定した。
2021年12月7日、大阪高裁は「関西スーパーの異議を認め、神戸地裁の仮処分を取り消す決定」をした。
これにより、関西スーパーとH2Oリテイリングは2021年12月15日に経営統合する見通し。
オーケーは、保有する関西スーパー株の買取請求をする可能性がある。オーケーは1株2250円でTOB(株式公開買い付け)を実施する方針だった。
なぜ、オーケーは関西スーパーの買収に執着するのか?
オーケーはあらゆる方法で関西スーパーを買収しようとしている。その理由を考察してみる。
オーケーは関東圏を中心に123店舗を展開し2020年の売上高は4,347億円、オーケークラブ会員数544万人となっている。
EDLP(エブリディロープライス)の経営方針で「安売り」を特徴としている。
「安売り」がオーケーの生命線であるが、その「安売り」を実現するためには大量仕入れをする必要があり、売上高を大きくしなければならない。
関東と言っても、人口密度が高く「薄利多売の安売り手法」が通用するのは東京(1400万人)と神奈川(920万人)の合計約2300万人くらいでしかない。
2300万人と言っても、日本全体(1億2600万人)のわずか18%でしかない。しかも、同じ地域で同じ「安売りスーパー」であるロピア(売上高2,068億円)と完全に競合しており、これ以上売上高を伸ばすことが困難になってきている。
そのロピアが関西に進出しており、10年単位でみれば、ロピアに売上高で肉薄される可能性が出てきた。
もし、そうなれば、オーケーは今のような安値で仕入れできなくなる可能性がある。つまり、関西でロピアが成功すれば、関東圏でもロピアに逆転される可能性が出てきた。
そのため、オーケーにとっては関西で売上高を作り、安く仕入れるためにより強大なバイイングパワーを獲得する必要に追い込まれた。
結局、関東といっても日本全体の20%~30%の人口と売上高しかなく、「安売りスーパー」としては関東だけで店舗展開していたのでは生き残りができない。
例えば千葉市の人口は98万人でしかない。人口密度が低いため、薄利多売の「安売りスーパー」の多店舗の出店は難しい。
府県名 | 人口 | 面積 | 人口密度 | 最大都市(人口) |
大阪府 | 880万人 | 1,905㎢ | 4,620人/㎢ | 大阪市(275万人:昼間人口350万人) |
千葉県 | 620万人 | 5,157㎢ | 1,200人/㎢ | 千葉市(98万人:昼間人口95万人) |
大阪市の人口密度は12,000人/㎡だが、千葉市は3,600人/㎡と低い。スーパーにとっては「大阪市の方が千葉市よりも魅力的な市場である」ことが分かる。
関東圏のスーパーにとっても出店の優先順位は、東京・神奈川・大阪となっていると思われる。
ちなみにスターバックスの店舗数は大阪市(面積225㎢)は70店舗、千葉市(面積271㎢)は17店舗しかない。
もっというと大阪市北区だけでスタバは25店舗、大阪市中央区だけで23店舗もある。
やはり、大阪の経済規模・市場規模はかなり大きい。
ヨドバシカメラ梅田店の年間売上高は1,200億円で、ヨドバシカメラの新宿西口本店や秋葉原店よりも大きい。
参照 https://www.bcnretail.com/market/detail/20191120_145841.html
今後の見通し
オーケーとしては、関西でロピアの後塵を拝すことは、バイイングパワーでロピアに敗北することを意味する。
その結果、今まで通りに安く仕入れることができなくなれば、関東圏での売上高も鈍化する可能性がある。したがって、オーケーはなりふり構わず「関西スーパー」を買収しようとすると思われる。
もし、オーケーが「関西スーパー」の買収に失敗すれば、10年~20年後にはオーケーは関東圏の弱小スーパーになってしまうかもしれない。
「薄利多売のビジネスモデル」をとる限り、関東圏だけで出店していては、じり貧になるだけだ。
問題となった株主総会での投票については、投票した株主は「H2Oとの統合に賛成の意思表示」をしたが形式的には「白票(=事実上の反対票)」を投票した。
個人的な意見であるが、裁判所としては形式的に問題があるので「仮処分の決定」をしたのだと思う。これは「暫定的処置」に過ぎない。
裁判所が「形式」よりも「本人の意思」を重視するなら、経営統合は認められる可能性があると思う。もちろん裁判所が「形式」重視ならば、経営統合案は否決という可能性もある。
2021年12月7日、大阪高裁は「関西スーパーの異議を認め、神戸地裁の仮処分を取り消す決定」をした。
これにより、関西スーパーとH2Oリテイリングは2021年12月15日に経営統合する見通し。
オーケーが関西スーパーを買収した場合
関西スーパーは価格よりも品質にこだわるスーパーだが、オーケーは関東の安売りスーパーという違いがある。顧客層の違いから、オーケーが買収してもうまくいかないとの見方もある。
しかし、ロピア大阪ベイタワー店を見る限り、オーケーも関西で売上を伸ばす可能性が高いと思う。
もちろん、関西スーパーの顧客層はいかなくなるだろうが、安売りスーパーのニーズは関東でも関西でも確実にある。
特にグロサリー(生鮮以外の加工食品)については、同じ商品ならオーケーの方が確実に安いと思う。
イメージでいうと、関西スーパーで248円(特売198円)の商品をオーケーは毎日198円で販売している感じだと思う。
個人的予想であるが、オーケーが買収した後、従来の関西スーパーの顧客層は離れると思うが、オーケーは新たな顧客層を獲得できると思う。
上記例だと関西スーパーで248円×10点=2,480円、オーケーなら198円×10点=1,980円くらいになるのではないか?
買収後、5年~10年で関西スーパーの年商1,300億円は1,500億円~2,000億円まで増加するのではないか?
関西への影響
関西のスーパーでは日替わりの特売で集客することが多い。また顧客も特売品を目当てにスーパーを2店、3店とはしごすることがある。しかし、ロピアなど関東系スーパーは他店での購入商品を持ち込みにくいシステムになっているので、従来のような複数店舗の買い回りはしにくい。
なぜ、特売をやるかというと、スーパーの平均購入額は2000円なので、入店数が多ければ自然と売上が上がる仕組みになっているからだ。例えば、特売で買物客1000人が入店すれば日販は200万円になる。特売をしないと買物客は800人で日販は160万円に落ちる。
関東系の安売りスーパーが関西でも広がると「特売」はなくなるかもしれない。また、チラシもなくなるかもしれない。