資生堂は2025年11月10日、2025年12月期の業績予想を大幅に下方修正しました。
期初に計画していた最終損益は60億円の黒字でしたが、一転して520億円の最終赤字となる見通しです。
2024年12月期の108億円の赤字に続いて2期連続、過去最大の赤字となります。
単なる一時的な業績悪化というよりも、資生堂の成長戦略そのものが揺らいでいることを示す修正と言えるでしょう。
今回の下方修正で最大の要因となったのは、アメリカ事業で計上した468億円の「のれん」減損です。
特に影響が大きかったのが、2019年に約900億円で買収した米国のスキンケアブランド「ドランクエレファント」の不振です。
- 想定していた売上成長に届かない
- 米国市場での競争激化
- インフルエンサー依存型ブランドの伸び悩み
などが重なり、買収時に見込んだ将来収益を下回ると判断されました。
結果として、成長投資として行ったM&Aが、巨額の減損という形で業績を直撃することになりました。
資生堂の成長ストーリーを支えてきたのが中国市場です。しかし、
- 中国経済の減速
- 消費者心理の冷え込み
- 中国ローカル化粧品ブランドの台頭
- 高級消費の伸び悩み
により、想定していた成長軌道は大きく崩れました。
特に問題なのは、この不振が一時的な景気循環ではなく、構造的な変化である可能性が高い点です。
中国一本足の成長戦略が、結果的にリスクを高めてしまいました。
高級化粧品が苦戦している最大の背景の一つが、美容医療の一般化です。
現在では、
- ピコレーザーなどの最新レーザー治療により
- シミ取りが1回1万円~2万円程度
- 短時間で施術が終わり
- 1週間~10日程度のダウンタイムはあるものの
- 1回で目に見えて効果が出る
という時代になりました。
一方で、高級化粧品の場合はどうでしょうか。
- 化粧水:1万円
- 乳液:1万円
- 美容液:1万円
合計3万円を2か月に1回購入すると、年間では約18万円になります。
しかも、
1年間使い続けても
- 本当にシミが薄くなったのか
- 効果があったのかどうか
- 「正直よく分からない」
というケースも少なくありません。
消費者の立場から見れば、
- 「安くて、早くて、効果が分かりやすい美容医療」
- 「高くて、時間がかかり、効果が曖昧な高級化粧品」
となり、選択が変わるのは自然な流れと言えるでしょう。
資生堂を含む高級化粧品メーカーは、これまで、
- 毎日使い続ける
- 長期的に肌を育てる
- 年齢とともにラインを上げる
というモデルで成長してきました。
しかし美容医療の進化により、
- 「毎日の積み重ね」より
- 「一度で結果が出る」
という価値観が主流になりつつあります。
これは、高級化粧品ビジネスの前提そのものが崩れていることを意味します。
資生堂は構造改革の中で、2021年7月、日用品・低価格帯ブランド「TSUBAKI(ヘアケア)」や「uno(メンズ化粧品)」などを1,600億円で投資ファンド「CVCキャピタル・パートナーズ」に売却しました。
短期的には収益改善につながりましたが、長期的には大きな代償もありました。
- 若年層が資生堂ブランドに触れない
- 百貨店の高級ライン(デパコス)からしか接点がない
- ブランドが「遠い存在」になる
結果として、顧客を長期で育てる仕組みを失ったのです。
今回の赤字は減損という会計上の要因が大きいものの、その背景には、
- 中国市場の構造的減速
- 米国M&Aの失敗
- 美容医療による市場環境の激変
- 高級化粧品モデルの限界
が重なっています。
結果として、「どこで、誰に、どんな価値を提供するのか」が見えにくくなっています。
資生堂が再び成長するためには、
- 美容医療との共存・連携
- 化粧品と医療の役割分担の再設計
- 効果が可視化できる商品・サービス
- 価格帯を横断したブランド再構築
といった、化粧品会社という枠を超えた発想が不可欠でしょう。
過去最大の赤字と2期連続の最終赤字は、資生堂にとって「変わらなければならない」という明確なサインです。
- 売上高:9,906億円
- コア営業利益:364億円
- 営業利益:76億円
- 税引前利益:△13億円(赤字)
- 当期利益:△108億円(赤字)
資生堂の業績(2025年12月期決算・予想)
- 売上高:9,650億円
- コア営業利益:365億円
- 営業利益:△420億円(赤字)
- 税引前利益:△420億円(赤字)
- 当期利益:△520億円(赤字)
