2026年1月18日頃、中国人民解放軍の制服組トップである張又侠(ちょう・ゆうきょう/チャン・ヨウシア)中央軍事委員会副主席と、劉振立(りゅう・しんりつ/リュウ・チェンリー)連合参謀部参謀長が、当局の調査対象となり職務から外されたと報じられました。
これは事実上の失脚と見てよい状況です。
中国人民解放軍の実権は、長らく張又侠氏が掌握していたとされています。習近平国家主席は、軍の完全掌握を進める過程で、同氏を排除した可能性が高いと考えられます。
特に張又侠氏は、台湾侵攻に対して慎重な立場であったとみられています。習近平氏が掲げてきた「2027年までに台湾侵攻が可能な軍備を整える」という目標は、計画通りには進んでおらず、現実的な実行には多くの課題を抱えていました。
台湾統一を最重要政治目標とする習近平氏にとって、張又侠氏の存在は次第に障害となっていったと考えられます。
一部のネット上では、中国人民解放軍によるクーデターの可能性が取り沙汰されています。しかし、こうした言説の多くは、再生回数や注目を集めることを目的とした誇張やデマに過ぎません。
習近平氏は2012年の国家主席就任以降、自身に反対する可能性のある軍高官を徹底的に粛正してきました。その結果、現在では公然と習近平氏に反旗を翻す軍幹部は、ほぼ存在しない状況となっています。
現時点において、中国人民解放軍は情勢を静観している段階であり、クーデターの兆候は確認されていないのが実情です。
張又侠氏が自身の失脚を予想し、信頼できる人物に「秘密の手紙」を託していたという噂があります。実際、その手紙とされる文書もインターネット上で出回っています。
しかし、これは後付けで作られた偽情報である可能性が高いと考えられます。
中国は高度な監視社会であり、張又侠氏のような軍中枢の人物が常時監視対象であったことは、ほぼ間違いありません。
そのような環境下で、たとえ親しい友人であっても、習近平氏を批判する内容の文書を託せば、発覚した時点で双方が粛正される危険性があります。
張又侠氏ほどの立場にあった人物が、そこまで大きなリスクを冒すとは考えにくく、この「秘密の手紙」は偽物である可能性が高いと言えるでしょう。
胡春華氏は1963年生まれで、16歳で北京大学に入学し、20歳で同大学を卒業しています。胡錦濤氏の後継者とされ、中国共産主義青年団(共青団)のエースと呼ばれてきました。
2022年の中国共産党大会で起きた胡錦濤氏の途中退席事件については、胡春華氏が習近平氏によって格下げされたことが一因ではないかと言われています。
胡春華氏は優秀すぎるがゆえに、独裁体制を志向する習近平氏にとって目障りな存在と見なされており、張又侠氏に次いで失脚させられる可能性が高い人物だと考えられています。
張又侠氏は、長年にわたって中国人民解放軍に勤務し、その経歴の中で雲南省とも深い関わりを持ってきました。
そのため、胡春華氏は雲南省に滞在している、という噂もあります。
雲南省はベトナムとの国境にも近く、最悪の場合には亡命するうえで地理的に有利な場所でもあります。
胡春華氏は、習近平氏と比べて穏やかな性格で人望も厚く、能力面でも優れていると評価されています。一方で、他人を欺いたり、権力闘争で相手を蹴落としたりすることは得意ではありません。
そのため、権謀術数に長けた習近平氏にとって、胡春華氏のような人物を粛正することは容易であると言えるでしょう。
以上を踏まえると、胡春華氏を中心に反習近平勢力が結集し、習近平政権を打倒するという展開は考えにくい状況です。
張又侠氏の失脚によって、習近平氏は軍権を完全に掌握し、今後はより色濃い「軍事独裁政権」として体制が続いていくと予想されます。
習近平氏は2016年に、中国人民解放軍の7軍区を5戦区へと再編しました。
表向きの理由は「陸・海・空軍の統合作戦体制の強化」とされていましたが、実態としては、前主席の胡錦濤氏、さらにその前の江沢民氏と関係の深い軍高官を排除・粛正することに主眼があったと見られています。
それから約10年が経過した2026年現在、少なくとも公の場で習近平氏を批判する軍高官はほぼ姿を消しました。この点において、習近平氏が中国人民解放軍の実権を掌握したと言える側面はあるでしょう。
ただし、それはあくまで通常時の統制という意味に限られます。
台湾侵攻のような国家の命運を左右する大規模な軍事作戦を、習近平氏が実際に主導し、円滑に遂行できるかどうかについては、依然として疑問が残ります。
しかし、現状を見る限り、軍によるクーデターが起こる可能性は低く、今後も習近平氏による人民解放軍の掌握が徐々に進んでいくと考えられます。
当初、中国は2027年までに台湾侵攻に必要な軍備を整える計画でしたが、現実的には達成は困難であり、実際に侵攻能力が整う時期は2028年から2030年頃になると予想されます。
さらに、習近平の主席4期目の任期は2028年~2033年とされます。
したがって、2028年以降、中国は台湾侵攻が可能な軍事力を背景に、台湾に対してこれまで以上に強烈な政治的・軍事的圧力をかけていくと見られます。
また、中国の人口は2022年以降、4年連続で減少しており、経済面でも若年層の失業率が40%に達するなど、深刻な不況に直面しています。
このような状況を踏まえると、習近平氏は中国の国力がさらに弱体化する前に、できるだけ早い段階で台湾侵攻に踏み切りたいと考えている可能性が高いと言えるでしょう。
台湾住民の感情も揺れ動いており、中国との対決姿勢を鮮明にする民進党の頼清徳総統の支持率は低迷しています。
その影響もあり、2026年11月の台湾の統一地方選挙では、民進党が敗北し、国民党が勝利する可能性が高いと予想されています。
習近平氏は、こうした状況に付け込み、軍事力を背景とした威圧と経済的・政治的な懐柔策を組み合わせ、台湾住民の感情を揺さぶる「心理戦」を仕掛けてくるでしょう。
台湾住民のうち、約12%は外省人(戦後に中国大陸から台湾へ移住した人々)とされており、さらに客家(ハッカ)系住民も多く存在しています。一般に、台湾北部には外省人が多く、南部には本省人が多いとされています。
戦後、国民党政権は北部を重視し、南部を相対的に軽視してきた経緯があり、その結果、現在でも表面化しにくい南北対立が水面下で存在していると考えられます。
習近平氏は、この台湾内部の南北問題を巧みに利用し、台湾統一を進める可能性があります。
例えば、国民党が台湾で政権を握った場合、習近平氏が国民党と親密な関係を築き、台北への攻撃は避けつつ、台湾南部への侵攻を示唆することで、「台湾内部の分裂」を意図的にあおるシナリオも考えられます。
習近平氏の第5期目の任期は2028年から2033年になると予想されており、その期間中に台湾統一を実現しようとする可能性は十分にあります。
個人的な見方では、一部で限定的な武力行使が行われる可能性はあるものの、全面侵攻に至らない形で、台湾が中国に統一される可能性が高いと考えています。
客家(ハッカ)は漢民族の一系統ですが、歴史的に異民族による過酷な支配や戦乱を避けるため、中国南部の広東省や福建省へ移住してきました。さらに、そこから東南アジアなど海外へ移住した人々も多く、現在では華僑の約3分の1が客家系だとされています。
客家は、突然移り住んできた集団であったため、先住民との軋轢が生じやすく、外敵から身を守る必要がありました。その結果、円形の土楼(現在は世界遺産)に集団で居住するなど、内部の結束が極めて強い民族性を形成してきました。
習近平氏自身は客家ではありませんが、福建省に長期間勤務していた経歴があり、その過程で客家との人的・政治的パイプを築いてきた可能性があると考えられます。
実際、タイの首相を務めたタクシン・シナワット氏およびインラック・シナワット氏の兄妹も客家系とされており、インドネシアの有力財閥にも客家出身者が多いと言われています。
さらに、習近平氏が2013年に提唱したシルクロード経済圏構想、いわゆる「一帯一路」の沿線地域には、客家系華僑が多く拠点を築いている地域が少なくないとも指摘されています。
このように見ると、習近平氏は客家ネットワークが持つ経済力や政治的影響力を、間接的ではあるものの、重要な背景として活用している可能性があります。台湾統一においても、この客家ネットワークを通じた影響力行使が用いられると予想されます。
中国社会の価値観では、国家よりも家族や血縁、共同体を重視する傾向が強く、客家ネットワークは場合によっては「国家」よりも優先される結束力を持ちます。
日本は、ほぼ単一民族国家ですが、台湾は本省人、外省人、客家、原住民など多様な民族で構成されており、決して一枚岩ではありません。
そのため、中国との統一を望む人々も、日本人が想像しているより多い可能性があると考えられます。
日本では近年、「台湾有事=武力衝突」という見方が固定化しつつあります。
しかし将来的には、台湾住民の意思を伴う政治的な統合が実現する可能性も、完全に排除すべきではありません。
日本は特定のシナリオに過度に依存することなく、抑止力の強化と対話・外交の余地を両立させた柔軟な戦略を維持する必要があります。
外交・安全保障の選択肢を自ら狭めない姿勢こそが、日本の国益と安全保障上の自由度を守ることにつながります。
日本は、台湾海峡の平和と安定を重視しつつ、外交・安全保障の選択肢を自ら制限しない姿勢を維持すべきです。
そのためには、抑止力の強化と同時に、対話や外交的関与の余地を残し、状況の変化に対応できる戦略的なバランス感覚が求められます。
