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「県民所得」は豊かさを正しく表していない ― 実態を映す指標は「1人当たり県民雇用者報酬」令和4年度(2022年度)

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「〇〇県は県民所得が高い」から「△△県は豊かだ」

こうしたランキング記事や行政資料を目にすることは多いですが、県民所得という指標は、私たちが感じる生活実感を必ずしも反映していません。

むしろ、地域の“実態”を表しているのは「1人当たり県民雇用者報酬」ではないでしょうか。

 

県民所得とは

県民所得には、主に以下が含まれます。

  • 雇用者報酬(給与・賞与)
  • 企業所得(法人の利益、個人事業主の営業利益)
  • 財産所得(利子・配当・不動産収入など)

つまり、サラリーマンの給料だけでなく、企業の儲けも含まれている指標です。

ここに、大きな“歪み”が生まれます。

 

特に輸出企業の場合、県民所得は実態とかけ離れやすい指標です。

その理由は、県民所得が企業の「本社(または主たる経営拠点)」に利益を帰属させる仕組みになっているためです。

海外子会社や海外事業で得た利益も、
→ 配当や内部留保として
→ 本社に帰属すると統計上判断される場合、本社所在地の県民所得を押し上げます。

例えば、本社が愛知県にある企業の海外子会社が大きな利益を上げた場合、
その利益は愛知県の県民所得に計上されます。

具体的には

  • 生産も北米
  • 販売も北米
  • 雇用も北米

で完結していたとしても、
「本社が愛知にある」というだけで、愛知県の県民所得は増えるのです。

 

県民所得は経済指標として時代遅れ

このように、輸出企業やグローバル企業が多い地域ほど、「県民所得」と県民の実際の生活水準との乖離は大きくなります。

県民所得という経済指標は、本来「県内で生産・販売・雇用が完結している」ことを前提に設計されたものです。しかし、グローバル化が進んだ現代経済の実態を、もはや正確に反映しているとは言えません。

今日では、多くの大企業が海外子会社において、生産・販売・雇用を完結させています。それにもかかわらず、海外子会社からの利益が配当や内部留保として日本の本社に帰属すれば、その本社所在地の県民所得は増加します。

極端な例を挙げれば、トヨタが愛知県内の工場をすべて北米に移し、県内での生産や雇用がゼロになったとしても、海外子会社の利益を本社に還流すれば、統計上は愛知県の県民所得が押し上げられます。

しかし、その県民所得の増加分が、愛知県民の雇用や賃金、生活水準の向上に直接結びついているわけではありません。実態としては、企業の内部留保が会計上増えているにすぎないのです。

要するに、トヨタの銀行預金の残高が数兆円増えただけで、愛知県民一人ひとりの財布が厚くなっているわけではない、という話です。

それどころか、愛知県内の工場がすべて閉鎖され、失業者が増え、地域経済が疲弊していたとしても、海外事業の利益が拡大していれば、「愛知県の県民所得」が増加することすらあり得ます。

このように、県民所得は「企業の海外事業の利益」を強く反映する一方で、「住民の生活実態」や「地域で生まれた付加価値」を正確に示す指標ではなくなっています。

21世紀のグローバル経済において、県民所得は地域の豊かさを測る指標として、すでに構造的な欠陥を抱えていると言えるでしょう。

 

工場の立地で数値は簡単に膨らむ

製造業の大規模工場が立地する県では、

  • 生産額が大きい
  • 法人所得(企業収益)が膨らむ

結果として、県民所得は押し上げられます。

しかし、

  • 現地雇用は非正規や下請け中心
  • 肉体労働の男性ばかりで、若い女性が県外に流出する

というケースも少なくありません。

 

本社が多い県

さらに顕著なのが「本社立地」です。

  • 大企業の本社が集中する県
  • 金融・商社・持株会社が集まる県

これらの県では、企業収益が県内に計上されるため、県民所得が非常に大きくなります。

しかし、その利益の多くは

  • 株主配当
  • 内部留保

であり、そこに住む県民一人ひとりに還元されることはありません。まさに「絵に描いた餅」と言えるでしょう。

 

なぜ議論では「県民所得」ばかり使われるのか

それでも行政や一部メディアが「県民所得」を好む理由は明確です。

  • 企業誘致や政策成果をアピールしやすい

特に、工場誘致や大企業立地を進めた自治体ほど、県民所得を使った“成功ストーリー”を描きがちです。

しかし、その裏で

  • 工場派遣ばかりで、住民の賃金は伸びない
  • 特に女性の若者が県外に流出する
  • 生活の満足度は上がらない

という矛盾が生じます。

「県民所得」という指標を用いて行政が成果をアピールするのは、「企業だけが利益を上げ、住民の多くは派遣労働などで生活水準がほとんど向上していない」という実態を覆い隠すためのミスリードだと言えるでしょう。

さらに、県庁記者クラブも行政からの情報提供に依存する立場にあるため、県の意向に沿って「県民所得」という数字をそのまま用い、結果として行政のミスリードを補強する役割を果たしている側面もあります。

また、マスコミ業界には文学部出身者が比較的多く、経済指標や統計データの読み解きに十分習熟していないケースも見受けられます。

テレビ番組はしばしば「高卒50歳の主婦」を想定視聴者として制作されており、専門用語になりがちな「雇用者報酬」よりも、「県民」「所得」といった言葉が含まれる「県民所得」のほうが、耳なじみがよく、視聴者に受け入れやすいという側面があります。

このような理由から、経済の実態により近い「雇用者報酬」よりも、分かりやすい一方で実態を捉えきれていない「県民所得」が、多用されるようになったと考えられます。

視聴者側も経済指標への理解を深め、「県民所得」を用いて県を比較するニュースについては、実態を正確に反映していない場合があることに注意する必要があります。

 

1人当たり県民雇用者報酬

一方で、「1人当たり県民雇用者報酬」は、

  • 実際に働く人が受け取っている給与・賞与
  • 生活の原資となる収入

を直接示す指標です。

つまり、生活実感に最も近い数値だと言えます。

 

1人当たり県民雇用者報酬(千円)令和4年度(2022年度)
順位 都道府県 1人当たり県民雇用者報酬(千円)
1 東京都  6,082
2 愛知県  5,181
3 千葉県  5,118
4 広島県  5,096
5 神奈川県  5,074
6 大阪府  5,033
7 山梨県  5,016
全国平均  4,876
8 兵庫県  4,827
9 京都府  4,770
10 福岡県  4,762
11 大分県  4,753
12 埼玉県  4,720
13 栃木県  4,710
14 茨城県  4,702
15 徳島県  4,683
16 福井県  4,664
17 石川県  4,660
18 宮城県  4,642
19 滋賀県  4,630
20 岡山県  4,617
21 三重県  4,602
22 香川県  4,599
23 長野県  4,597
24 岐阜県  4,597
25 静岡県  4,561
26 奈良県  4,551
27 北海道  4,545
28 福島県  4,541
29 群馬県  4,507
30 富山県  4,485
31 山口県  4,458
32 新潟県  4,368
33 山形県  4,359
34 愛媛県  4,356
35 和歌山県  4,351
36 長崎県  4,306
37 熊本県  4,240
38 岩手県  4,191
39 宮崎県  4,046
40 島根県  4,023
41 佐賀県  4,019
42 秋田県  4,011
43 鹿児島県  3,968
44 青森県  3,960
45 沖縄県  3,947
46 高知県  3,880
47 鳥取県  3,678

1位の東京都は608万円で、2位の愛知県(518万円)よりも約90万円高い水準です。
しかし、これは一部の富裕層が平均値を大きく押し上げているに過ぎません。

例えば、2人以上世帯の平均貯蓄額は1,563万円ですが、中央値は450万円にとどまっています。
東京都の雇用者報酬が高く見えるのも、これと同じ構図だといえるでしょう。

大阪府は6位の503万円ですが、これは「県民雇用者報酬」における「県民」が、勤務地ではなく居住地(原則1年以上居住、または居住見込み)で判定されるためです。

例えば、勤務先が大阪市内の大企業であっても、芦屋市や西宮市など兵庫県に居住している場合は、兵庫県の県民所得として計上されます。

ちなみに、阪急「大阪梅田駅」=「西宮北口駅」の所要時間は10分、JR「大阪駅」=JR「芦屋駅」は15分と通勤圏と言えます。

兵庫県は8位の483万円ですが、この数値には、勤務先が大阪市内の大企業で、芦屋市や西宮市など兵庫県に居住している県民が含まれています。

そのため、勤務先・居住地ともに兵庫県内である県民に限定した場合の平均年収は、さらに低くなると推定されます。

 

県民所得や府県別GDPは実態と乖離

大阪府は面積が約1,900㎢と全国でも小さく、経済活動は府域内で完結していません。企業の本社は大阪市に置かれていても、実際の生産拠点は滋賀県や姫路(兵庫県)に立地しているケースは珍しくありません。また、勤務先が大阪市内であっても、居住地は西宮など府外という通勤形態も一般的です。

このように、現代の大都市圏経済は県境を越えて一体化しており、「県単位」で区切ること自体が実態と乖離しています。にもかかわらず、県民所得や府県別GDPといった指標にこだわるのは、経済構造が単純だった時代の発想にすぎません。

県単位の経済指標は、もはや都市圏経済の実情を映すものではなく、政策判断や都市比較においても参考価値は低いと言えます。時代遅れで、実務的にはほとんど役に立たない指標だと言えるでしょう。

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