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【深層】なぜ10年も?神戸・JR三ノ宮駅ビル再開発の遅れ、真の理由は「JR西と神戸市のバスターミナル攻防戦」だった?

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2025年5月(南西から撮影)

2025年5月(東から撮影)

2018年に閉館した旧三宮ターミナルビル。2019年の解体開始から新ビル完成の2029年度まで「10年」を要する異例の長期化。その背景として、コロナ禍や物理的な難工事が語られがちですが、実はもっと根深い「神戸市」と「JR西日本」の利害の不一致があったのではないか——。

2006年完成の「ミント神戸」の再開発の歴史、そして鉄道会社としてのJRのビジネスモデルを紐解くと、10年という歳月の裏にある「駅前1階の床」をめぐる壮絶なディスカッションの姿が見えてきます。

 

JR三ノ宮新駅ビル(仮称)物件概要

出典 JR西日本

施設名称 JR三ノ宮新駅ビル(仮称)
所在地 神戸市中央区雲井通8丁目 1-2
用途 商業施設、オフィス、ホテル
敷地面積 約8,600㎡
延床面積 約91,500㎡
階数 地上30階・地下2階・塔屋2階
高さ 約155m
設計 竹中工務店・大鉄工業JV
施工 竹中工務店・大鉄工業JV
着工 2024年3月6日(起工式)
2024年4月着工
開業 2029年度
事業費 500億円

隣接する神戸新聞社の「ミント神戸」は容積率1600%まで緩和されているが、JR新駅ビルは容積率1100%しか緩和されていない。

フロア構成

フロア 内容
30階 レストラン
18階~29階 ホテル(250室)
12階~17階 オフィス(旧計画・賃貸面積6,000㎡)
地下1階~地上10階 商業施設(旧計画・店舗面積19,000㎡)
2階レベル 駅前広場(ミント神戸との間)に2,500㎡の屋外デッキ(広場)
  • ホテル(高層階)の客室数は250室で、上質で洗練された客室・ロビー空間を設ける。

 

ミント神戸の「容積率緩和」の事例から考察

そもそも、神戸市は以前から「三宮に点在する中長距離バス乗り場を集約したい」という強い執念を持っていました。

その好例が、2006年に開業した「ミント神戸(神戸新聞会館)」です。

ミント神戸は1階に大規模なバスターミナルを設置するのと引き換えに、神戸市から大幅な「1,600%という容積率の緩和(本来よりも大きなビルを建てられる特例)」を受け、高層ビルを実現させました。

この成功体験がある神戸市にとって、次の本丸である「JR三ノ宮新駅ビル」の建て替えにあたり、「駅ビル側にもバスターミナル機能を組み込めないか」という打診や構想をJR側に提案した可能性があると考えられます。

ちなみに、JR三ノ宮新駅ビル(JR西日本)の容積率は1,100%で、ミント神戸 の1,600%よりも500%低い水準となりました。

現行制度では、最大で2,000%まで容積率の緩和が可能です。仮に2,000%まで緩和されていれば、現在の延床面積約9.2万㎡は、17万㎡規模になっていた可能性があります。

 

JR西日本の拒絶?本業を脅かす「巨大バスターミナル」の壁

しかし、JR西日本にとって、この提案は到底受け入れられるものではなかったと推測できます。理由は主に2つあります。

1. 「鉄道客の争奪」という本業へのブーメラン
JR西日本はグループ内にバス事業(西日本ジェイアールバス)を持っていますが、売上の基盤はあくまで「鉄道」です。

もし駅前に、競合となる高速バス(特に大阪・東京方面や、四国・淡路島方面など)の超巨大な発着拠点を自ら作ってしまえば、本業である鉄道の乗客をバスに奪われる(カニバリズムを起こす)リスクが生じます。

2. 1日1700便のバスによる「歩行者動線の分断」と集客力低下
三宮のバス発着便数は1日約1,700便とも言われます。

もし、新駅ビルの1階にそれだけのバスが出入りする構造にすれば、駅前一等地の「歩行者動線」が完全に分断されてしまいます。

1階はビルの「顔」であり、最大の利益を生む場所: 通常、駅ビルの一等地である1階には、最も集客力があり賃料の高い商業施設や、誰もがスムーズに行き交う広場を配置するのがセオリーです。

バスの出入りは危険と混雑を生む: ひっきりなしに大型バスが行き交う1階は、歩行者にとって危険なだけでなく、賑わい空間としての魅力(回遊性)を著しく低下させます。

JR側としては、「1階をバスターミナルにされたら、駅ビルとしての集客力が死んでしまう」と猛反発したとしても不思議ではありません。

結末:決裂の末の「住み分け」と、失われた時間
結果としてどうなったか。現在の最終決定された計画を見ると、その答えがはっきりと分かります。

JR三ノ宮新駅ビルの1階はバスターミナルではなく、商業施設になり、神戸市が熱望した新しい巨大バスターミナルは、東側の「雲井通5丁目地区(現在のツインタワー計画地)」に完全に分離して整備されることになりました。

逆にいうと、神戸三宮TWINGATE(ツインゲート)1期ビルに「バスタ神戸三宮」が設置されることになり、将来的に、ミント神戸、神戸三宮TWINGATE(ツインゲート)1期ビル、2期ビルの3棟にまたがる巨大な「バスターミナル」計画が決定したことで、JR三ノ宮新駅ビルの建設も決定した、という流れだと思います。

 

まとめ

つまり、「駅ビルにバスを乗り入れさせたい神戸市」と、「それを拒否し、商業と歩行者ファーストを貫きたいJR西日本」の間で、グランドデザインの綱引き(調整)が長年続いたことこそが、解体から着工までに何年もかかってしまった最大の要因(=10年の空白の正体)だったと考えられます。

調整の難しさを物語る「約300mの歩行者デッキ」

最終的に「駅ビル」と「バスターミナル」を別々のビルに分けることで決着した両者ですが、今度は「離れた2つのビルをどうスムーズに繋ぐか」という新たな問題が発生しました。

現在、両ビルを繋ぐために全長約300mに及ぶ巨大な歩行者デッキの計画が進んでいますが、この設計コンペや権利調整にも膨大な時間が費やされました。別々にしたからこそ、後からの帳尻合わせにさらに時間がかかっているのが現状です。

また、1日1700便のバスターミナルの出入りを円滑にするため、歩行者動線を地上から2階レベルの「歩行者デッキ」に変更する目的もあったと思われます。

ミント神戸の時はうまくいった手法が、JR西日本という巨大な相手には一筋縄ではいかなかった。都市開発の裏側にあるこうした「パワーバランス」を意識しながら今の工事現場を眺めると、また違った景色が見えてきますね。

 

2029年の完成後

2029年にJR三ノ宮駅新駅ビルか完成する前に、2027年春にはJR大阪駅北側の「グラングリーン大阪」の再開発が完了します。

そのような状況で、JR三ノ宮新駅ビルが完成しても、神戸経済を復活させることはできるのだろうか?

しかも、JR三ノ宮新駅ビルのオフィス賃貸面積は合計6,000㎡、ホテルは250室(ヴィスキオが有力)、商業施設の店舗面積は19,000㎡とかなり小規模です。

今回の計画では、ペデストリアンデッキ(人工地盤)などを活用した「2階の歩行者動線」が強化される方針です。

一見、車と分離されて安全に見えますが、これは「歩行者がわざわざ上下移動を強いられる」ということでもあります。高齢化が進む社会で、階段やエスカレーターの移動を前提とした動線は本当に優しいと言えるのでしょうか?

また、路面(1階)の活気が失われ、人工的な通路をただ「通過するだけ」の街になってしまえば、神戸らしいお洒落でゆったりとした雰囲気が損なわれてしまうのではないかと危惧されています。

1日1,700便の衝撃。排ガスと騒音で「心地よさ」は崩壊するか

新しく整備されるバスターミナルには、1日あたり約1,700便ものバスが発着する予定とされています。
想像してみてください。これだけの数の大型車両が、毎日毎日、駅周辺を行き交うのです。

絶え間ないエンジン音と加速時の騒音

排気ガスによる空気の悪化と、それに伴うヒートアイランド現象の加速

これでは、駅ビル周辺で「ゆっくりお茶を飲む」「心地よく散策する」といった、神戸が目指すべき「滞在型観光」の魅力は半減してしまいます。

 

「低運賃を好む層」と「神戸の経済効果」のミスマッチ

長距離高速バス(夜行バスなど)の主な利用者層は、新幹線や飛行機に比べて「移動コストを極限まで抑えたい」という動機を持つ傾向が強いのが現実です。

節約志向の強い旅行者が増えたとしても、彼らが神戸の高級ホテルに泊まったり、老舗の飲食店で贅沢をしたり、高価なお土産を爆買いしたりする可能性は低いと言わざるを得ません。

「人はたくさん集まるけれど、地元にお金が落ちない」という、いわゆる“通過型・低単価”の観光地化が進んでしまうリスクを、行政や開発側はどれだけ真剣に考えているのでしょうか。

 

誰のための、何のための再開発なのか

「巨大なビルができ、バスが集約されれば、それで都市は発展する」という時代ではありません。

神戸に必要なのは、コンクリートと排ガスに囲まれた慌ただしい「乗り換え駅」ではなく、市民や観光客がゆったりと時間を過ごしたくなる「居心地の良い空間」のはずです。

バス利用者の便利さの代償として、神戸の最大の武器である「洗練された街の空気感」や「快適性」が失われてしまっては本末転倒です。

 

得をするのは「神姫バス」?見え隠れする利害関係

この計画で、実質的に最も大きなメリット(メリット)を享受するのは、地元・兵庫県を大拠点とする「神姫バス」だと言われています。

現在も三ノ宮周辺のバス路線の多くを神姫バスが握っていますが、新しい巨大ターミナルができれば、その運行効率はさらに向上し、一等地での存在感は不動のものになります。

  • 市民・歩行者: 2階の動線を強いられ、地上は排ガスと騒音、ゆっくり憩える空間を奪われる。
  • 神姫バス(およびバス事業者): 整備された一等地のターミナルを効率よく使える。

これでは、行政が市民の快適な暮らしを犠牲にして、特定の民間企業のビジネスをお膳立てしていると捉えられても仕方がありません。

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