
世界的に自動運転やAIの活用が進むなか、次に大きく変わろうとしているのが「海」です。とりわけ日本では、内海という地理的特性を持つ瀬戸内海が、自動運航船の実証フィールドとして大きな可能性を秘めています。そして、その中心的な役割を担いうるのが大阪です。
瀬戸内海は波が比較的穏やかで、港湾間の距離も短く、定期航路が数多く存在します。神戸・大阪・高松・松山・広島などを結ぶ航路は、物流・フェリー・観光と用途も多様です。
外洋に比べて気象や海象の変化が読みやすいこの海域は、AIによる航行判断アルゴリズムの高度化や、衝突回避システムの精度向上、遠隔監視技術の実装に適しています。いわば「海の自動運転レベル4」を目指すための理想的なフィールドといえるでしょう。
自動運転レベル4
一定の条件のもと、港への着岸やシステムが導いたルートに沿って自動運航ができる。
大阪は単なる商業都市ではありません。湾岸部には工場や物流拠点が集積し、その周辺には高度な技術力を持つ中小製造業が数多く存在します。
船舶にAIを組み込むには、センサー技術、通信制御、電動推進システム、ロボット制御、サイバーセキュリティなど、多様な分野の連携が欠かせません。
大阪は都市中心部と湾岸工業地帯が近接しているため、開発拠点と実証海域を短時間で行き来できます。研究開発から実装、改善までのサイクルを高速で回せることは、大きな優位性です。
東京モデルとの構造的な違い
一方、東京はオフィス機能が高度に集中した都市です。IT企業や金融機関は集まっていますが、ハードウェアの試作や改良を行う現場は郊外や地方に分散しています。
AIを組み込んだ自律型ロボットや自動運航船の開発には、現場での細かな調整と即時のフィードバックが不可欠です。開発拠点と製造拠点が物理的に離れていると、試行錯誤のスピードはどうしても落ちます。

定期内航コンテナ船「げんぶ」
こうした流れの中で注目されるのが、日本財団が推進する「MEGURI2040」プロジェクトです。少子高齢化による船員不足や、ヒューマンエラーによる事故の削減を目指し、無人運航船の実現に取り組んでいます。
日本財団は技術開発だけでなく、ルール整備や法制度の構築、社会的理解の醸成も進めながら、2040年までに内航船の50%を無人運航化する目標を掲げています。
第1弾として岡山県では旅客船「おりんぴあどりーむせと(全長65m・総トン数 942トン・竣工2019年)」が2025年12月、世界初の「一般旅客が乗船する定期船」が商用運航を「新岡山港―土庄港(小豆島)」間で開始しています。
その第2弾として、自動運航船として唯一新造された定期内航コンテナ船「げんぶ」(5,689総トン)が、自動運転レベル4相当で一般貨物を積載した商用運航を世界で初めて開始しました。神戸入港時には自動着桟の様子も公開され、技術の実用段階入りを印象づけました。
定期内航コンテナ船「げんぶ」
- 全長134.9メートル
- 5,689総トン
- 完成:2025年秋
- 標準的なコンテナ「696個」
- 実証実験:2026年1月30日、神戸ポートターミナル「世界初の商用運航」開始
- 航路:神戸―大阪―名古屋―清水―横浜―東京
- 船舶管理会社:イコーズ(山口県周南市)
- 運航会社:鈴与海運(株)
自動運航技術は、単なる省人化にとどまりません。内航海運の人手不足対策、災害時の物流確保、CO₂削減のための最適航路制御など、多面的な効果が期待されます。
そして何より重要なのは、ソフトウェアとハードウェアを融合させたこの分野が、日本の造船・海事産業の競争力を左右する可能性を持つことです。
瀬戸内海という実証フィールドと、大阪という実装力のある都市。この組み合わせは、日本の海洋DXを牽引する条件を備えています。
海から始まる産業革命。その最前線である「大阪」から、静かに、しかし確実に動き始めています。
