
森ビル系シンクタンクの森記念財団都市戦略研究所が発表した「世界の都市総合力ランキング2025」で、東京が調査開始(2008年)以来初めて2位となりました。これまで上位を維持してきたニューヨークを逆転する形となり、首位はロンドンが14年連続で維持しています。
一方、大阪は前年の35位から18位へと大きく順位を伸ばし、国内都市の中で最も高い伸び率を記録しました。この上昇は一時的な評価改善にとどまらず、都市機能や国際競争力が着実に底上げされつつあることを示しています。
今回の結果は、単なる都市ランキングの変動ではなく、日本の都市構造が「東京一極集中」から「複眼型」へと移行し始めている兆候とも読み取れます。その延長線上には、国の機能や役割を分担する「副首都」という概念が、現実的な選択肢として浮かび上がってきているようにも感じられます。
世界都市ランキング(2025年)
| 順位 | 都市名 | 前年順位 |
|---|---|---|
| 1 | ロンドン | 1 |
| 2 | 東京 | 3 |
| 3 | ニューヨーク | 2 |
| 4 | パリ | 4 |
| 5 | シンガポール | 5 |
| 6 | ソウル | 6 |
| 7 | アムステルダム | 7 |
| 8 | 上海 | 11 |
| 9 | ドバイ | 8 |
| 10 | ベルリン | 9 |
| 18 | 大阪 | 35 |
| 40 | 福岡 | 42 |
本ランキングは、世界の主要48都市を対象に
①経済
②研究・開発
③文化・交流
④居住
⑤環境
⑥交通・アクセス
――の6分野・72指標で評価されたものです。
東京は、コロナ禍で落ち込んだ訪日外国人客の回復を背景に、「文化・交流」分野で前年から順位を1つ上げ、2位となりました。「観光地の充実度」「食事の魅力」「文化イベント開催件数」など、多くの指標で高い評価を獲得しています。
さらに、円安の影響によって物価水準の相対的な低さが評価され、「居住」分野では首位に立ちました。東京は世界有数の「住みやすく、訪れやすい巨大都市」としての地位を、改めて確立したと言えるでしょう。
一方で、「賃金水準の高さ」や「優秀な人材確保の容易性」などが伸び悩み、経済分野は12位と前年から順位を下げました。
成熟都市としての限界
この結果は、東京の競争力が失われたことを意味するものではありません。むしろ、
- 賃金水準の伸び悩み
- グローバルな人材獲得競争における相対的優位性の低下
- 超成熟都市ゆえの成長余地の制約
といった、構造的な課題が可視化された結果と捉えるべきでしょう。
東京は今後、「すべての機能を抱え込む都市」であり続けるのではなく、
機能を分散させながら、日本全体を牽引する中核都市へと役割の転換を迫られています。
この文脈で見ると、大阪をはじめとする大都市の存在感の高まりは、偶然ではなく、日本の都市構造が次の段階へ移行しつつある兆候とも読み取れます。
その延長線上には、「副首都」という概念が、より現実的な選択肢として浮かび上がってきているように思われます。
今回のランキングで、日本国内において最も注目すべき動きを見せたのが大阪です。
大阪は大阪・関西万博の開催効果などを背景に、前年の35位から18位へと急上昇しました。
分野別に見ると、その伸びは明確です。
文化・交流:23位 → 13位
外国人訪問者数は初めて世界2位となり、2025年は約1,700万人(前年比約16%増)が見込まれています。万博を契機に、国際的な集客都市としての存在感を一段と高めました。
居住:6位
小売店や飲食店の多さ、比較的抑えられた物価水準が評価され、「暮らしやすさ」の面でも高い評価を獲得しています。
このほか、交通・アクセス、経済、環境の各分野でも5〜7順位の上昇を記録しており、都市機能全体がバランスよく底上げされたことがうかがえます。
森記念財団の市川宏雄理事は、「ロンドンが五輪を契機に都市力を高めたように、大阪も国際イベントが都市力向上の転機になっている」と指摘しています。
大阪と「副首都」構想
大阪は「研究・開発」を除く5分野で順位を上げ、特に「文化・交流」「居住」「交通・アクセス」で高評価を得ました。
これは、副首都に求められる条件とほぼ重なります。
副首都機能として重要なのは、
- 国際的な集客力(インバウンド・MICE)
- 生活コストの競争力
- 災害・リスク分散の受け皿
-
東京に依存しない都市ブランド
といった要素です。
大阪は万博という国際イベントを通じて、これらの条件を理念ではなく実績として示した形となりました。
万博は一過性か、それとも都市構造転換の起点か
大阪・関西万博はしばしば「一過性イベント」と見られがちです。しかし、今回の評価を見る限り、万博は都市力そのものを押し上げる効果を発揮しています。
ロンドンが2012年五輪を契機に、
- 国際都市としてのブランドを確立
- 再開発とインフラ整備を加速
-
世界都市ランキング首位を定着
させたように、大阪もまた、万博を都市構造転換の起点とできるかどうかが問われる段階に入りました。
重要なのは「イベント後」です。
- 夢洲の跡地利用
- 梅田・難波・中之島との機能連携
- 国際金融・スタートアップの誘致
- 国の機関や企業本社機能の分散配置
といった、ハードとソフトを連動させた都市戦略が不可欠となります。
副首都構想は、制度やスローガンで決まるものではありません。
都市としての実績が積み重なった結果、事実上の副首都と認識されるものです。
今回のランキングは、
- 東京:世界トップクラスの成熟首都
-
大阪:成長余地を残した実践型国際都市
という役割分担が、数値として示された初めての事例とも言えるでしょう。
「物価水準の低さ」「住宅賃料水準の低さ」は48都市中最下位となっています。
特に「空港アクセス時間の短さ」が首位となり、コンパクトシティとしての強みが評価されています。
- 東京:文化・交流と居住の強化で初の世界2位
- 大阪:万博を追い風に国内外で存在感を拡大し、世界18位
- 国際イベントやインバウンド回復が、都市力に直結する時代へ
世界都市ランキングは、今後の都市政策や再開発の方向性を占う重要な指標となりそうです。
