奈良県明日香村の谷あいに、新たな高級旅館「星のや飛鳥」が2027年に誕生します。
約5万㎡という広大な敷地に、客室数35室、低層の分棟型建築、瓦屋根の意匠、そして敷地中央に“棚田を想起させる庭”を配す設計など、土地と歴史を感じさせる滞在体験を提供する計画です。
星野リゾートは奈良県において、2026年に旧奈良監獄を活用した「星のや奈良監獄」も開業予定であり、今回の飛鳥は県内2施設目の星のやブランド宿となります。
この計画は、星野リゾートが奈良県明日香村と長年にわたって締結してきた協定の下で進められています。たとえば、2016年に「企業立地に関するパートナーシップ協定」、2019年には「地域活性化包括連携協定」が結ばれており、相互の連携を深めながら地域に根ざした宿泊施設づくりを目指してきました。
地図

施設名 | 星のや飛鳥 |
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所在地 | 奈良県高市郡明日香村大字真弓979-1他 |
敷地面積 | 49,997㎡ |
建築面積 | 5,295㎡ |
延床面積 | 5,501㎡ |
客室数 | 35室 |
ホテル計画 | 東環境・建築研究所 |
ランドスケープ設計 | オンサイト計画設計事務所 |
開業 | 2027年(予定) |
アクセス | 近鉄「飛鳥駅」から1km~1.5kmか? |
デザイン・意匠:歴史と風景との調和
「星のや飛鳥」は、明日香村という地域の景観・歴史・風土を意識した設計が随所に取り入れられる計画です。以下、特徴的な要素を挙げます。
分棟型・低層建築
村のまちなみ風景に調和するよう、客室は低層の分棟型で配置される予定です。これにより、建物の圧を抑え、地形との馴染みを重視する設計とされています。
瓦屋根の意匠
飛鳥時代に仏教とともに伝わった瓦屋根を、施設意匠のモチーフとして採用。歴史的文脈を感じさせる素材選びが意図されています
中庭・庭の構成
敷地中央には棚田を想起させるような庭が広がる設計。この庭が施設内の空間軸をつなぎ、各棟を風景の中で包み込むような構成になるようです。
こうした設計は、宿泊者が滞在中に「時代を超える旅」や「土地との対話」を感じられるような体験を目指していると考えられます。
このプロジェクトが特別なのは、単なる宿泊施設ではなく、歴史風土保存地区である明日香村という地域そのものと密結合した事業である点です。
歴史資源との近接
明日香村には、石舞台古墳、キトラ古墳、高松塚古墳、法興寺(飛鳥寺)など、飛鳥時代から奈良時代への移行期の歴史的資産が多く点在します。
また、明日香村は“行政区域内全域が歴史的風土特別保存地区”という体制をとっており(通称「古都法」「明日香法」)、地域の景観保全が法制度的にも強く意識されています。
これらの地で、宿泊者がただ「泊まる」だけでなく、風景と時間、歴史と対話するような体験をすることが、本計画の大きな魅力になります。
観光分散と地域活性化
関西/奈良圏ではどうしても奈良市・東大寺・興福寺界隈に観光が集中しがちですが、飛鳥という場所に高級宿泊施設を設けることで、観光客の滞在分散を図る意図も読み取れます。実際、星野リゾート側も「関西観光の新たな選択肢を提案」する狙いを明らかにしています。
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滞在観光の強化
飛鳥地域に高級旅館ができることで、これまで日帰り観光が中心だった訪問者を「一泊して過ごす人」につなげられる可能性があります。 -
収益の地域還元
地元の食材調達、地元雇用、観光案内やアクティビティ連携などを通じ、宿泊収益が地域に回る構造が作られる可能性があります。 -
観光分散と混雑緩和
奈良市中心部の観光過密を和らげ、飛鳥・藤原地域への観光流動を促す拠点としての役割も期待されます。
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景観・文化財保全との摩擦
歴史的風土特別保存地区であるため、建築制限や景観規制が厳しく、施工過程や運用面で地元・行政との調整が不可欠です。 -
採算性
客室数が少ない(35室)ため、稼働率を保つこと、施設運営コストを抑える仕組みが重要になります。 -
アクセス性・インフラ
飛鳥地域は鉄道・バス網が限られているため、宿泊者のアクセスプラン整備、送迎交通や地域交通との連携が鍵。 -
地域受容性
地元住民からの理解・協働が不可欠。日常と非日常の境界、騒音・交通への配慮などが影響します。