
フィジカルAIとは、AIがデジタル空間だけでなく、ロボットや機械を実際に動かし、現実世界で仕事をする技術です。
生成AIの次の成長分野として、ヒューマノイドや工場ロボット、自動運転、物流ロボットなどへの応用が期待されています。
そして、フィジカルAIで日本が勝つための有力な地域の一つが関西だと考えます。
関西には、
- パナソニックなどの大手メーカー
- ダイキンなどの機械・空調メーカー
- クボタなどの産業機械
- 村田製作所などの電子部品
- 大阪大学・京都大学などの研究機関
- 神戸・大阪の物流拠点
- 関西電力などのエネルギーインフラ
- 大阪・関西万博で蓄積されたロボット実証の経験
など、フィジカルAIに必要な「現場」が集積しています。
関西の勝ち筋は、AIそのものを作ることだけではなく、「AIを使って現実世界の機械を動かす産業」を集積させることではないでしょうか。
これまでのAIは、基本的にパソコンやスマートフォンの中で利用するものでした。
生成AIに質問すると文章を作ったり、画像を生成したりします。
一方、フィジカルAIはAIが現実世界を認識し、判断し、ロボットや機械を動かします。
例えば、
カメラ・センサー → AIが認識 → 判断 → ロボットが動作
という流れです。
工場で部品を組み立てたり、倉庫で荷物を運んだり、店舗で商品を補充したり、建設現場で作業したりすることが可能になります。
つまり、フィジカルAIは「AIが身体を持つ」方向への進化ともいえます。
私は、日本はフィジカルAIで十分に勝負できると考えています。
理由は、日本には世界的な製造業の基盤があるからです。
自動車、産業機械、電子部品、工作機械、ロボット、空調、建設機械など、日本企業は「現実世界のモノ」を長年作ってきました。
フィジカルAIでは、AIの性能だけではなく、
モーター、センサー、減速機、半導体、電池、機械、制御技術、製造現場
など、非常に幅広い技術が必要になります。
この点では、日本企業が持つ「ものづくりの蓄積」が大きな強みになります。
実際、経済産業省も2026年度から2030年度にかけて、AIロボット・フィジカルAI向けの国産マルチモーダル基盤モデル開発事業を開始しています。
経産省は、製造業など日本が強みを持つ産業の「現場データ」を活用することを、フィジカルAIにおける日本の勝ち筋の一つと位置付けています。
ここが重要です。
関西には、フィジカルAIに必要な要素が比較的コンパクトに集積しています。
① ものづくり企業が多い
大阪・兵庫・京都・滋賀などには、機械、電機、電子部品、化学、製薬、自動車関連など、多様な製造業が存在します。
フィジカルAIは、単純にAI企業だけでは成立しません。
実際の工場や倉庫に導入して、
「この作業をAIロボットに任せられるか?」
を検証する必要があります。
その意味で、製造業そのものがフィジカルAIの実験場になるのです。
② 大阪・関西万博が「ロボット実証の場」になった
大阪・関西万博では、多数のロボットが実際の会場で導入されました。
公式サイトによると、ロボットエクスペリエンスには25企業・団体、50機種以上のロボットが参加しました。
つまり大阪・関西万博は、単なる展示会ではなく、
「人間とロボットが共存する社会」の実証フィールド
としての意味も持っていました。
この経験を、万博終了後に大阪・関西の企業へ引き継ぐことが重要です。
③ 大阪府もフィジカルAIを意識して動き始めている
大阪府では2026年度から「ロボットオープンイノベーション推進事業」を開始しています。
多様なロボットニーズに対応できる開発環境を構築し、府内企業のロボット関連産業への参入や事業拡大を促す取り組みです。
2026年には「フィジカルAI時代のロボットビジネス最前線」というセミナーも開催され、NVIDIAなども参加しています。
これは非常に重要な動きです。
大阪が単に「AIを利用する都市」ではなく、
AI×ロボットの産業集積地
を目指しているからです。
④ 関西電力もフィジカルAIの実証を開始
関西では、エネルギー分野でもフィジカルAIの実証が始まっています。
関西電力は2026年、スタートアップのAthena Technologiesとともに、四足歩行ロボット「Unitree Go2」を音声入力で制御する実証実験を開始しました。
NVIDIAのDGX Sparkを利用し、外部ネットワークから切り離した閉域環境でロボットを制御する実証です。
これは、フィジカルAIが工場だけではなく、
電力設備・インフラ点検・保守
などにも広がる可能性を示しています。
関西には電力、鉄道、空港、港湾、物流などの巨大な社会インフラがあります。
これらはフィジカルAIとの相性が非常に良い分野です。
個人的には、関西が特に狙うべき分野は次の5つだと思います。
| 分野 | フィジカルAIの活用 |
|---|---|
| 製造業 | 工場ロボット・検査・組立 |
| 物流 | 倉庫搬送・荷物仕分け |
| インフラ | 点検・保守・巡回 |
| 医療・介護 | 介護支援・搬送・見守り |
| 観光・サービス | 接客・案内・清掃 |
特に重要なのが製造業とインフラです。
関西には実際の工場や社会インフラが大量に存在するため、AIロボットの実証環境を作りやすいからです。
関西が本気でフィジカルAIを成長産業にするなら、
大学 → AI企業 → ロボット企業 → 製造業 → インフラ企業
を一つのエコシステムとしてつなげることが重要だと思います。
例えば、
京都大学・大阪大学など
↓
AI・ロボット研究
大阪のスタートアップ
↓
AI・制御ソフト開発
関西の製造業
↓
ロボット・機械・部品
関西電力・鉄道会社・物流会社
↓
実証フィールド
そして、
大阪・関西で開発
↓
関西で実証
↓
日本全国へ展開
↓
海外へ輸出
という流れを作ります。
これが実現すれば、関西そのものが「フィジカルAIの巨大な実験場」になります。
AIというと東京に企業や人材が集中するイメージがあります。
しかし、フィジカルAIでは事情が少し違います。
フィジカルAIは、
「AI企業があるだけ」では成立しません。
実際にロボットを動かす工場、倉庫、病院、ホテル、空港、鉄道、発電所などが必要です。
そのため、製造業やインフラが集積する関西には大きな可能性があります。
東京が、
「AI・ソフトウェアの中心」
になるなら、
関西は、
「AI×ロボット×ものづくりの中心」
を目指す戦略も考えられます。
フィジカルAIは、まだ発展途上の技術です。
人間のように何でもできるロボットがすぐに普及するとは限りません。
しかし、工場、物流、インフラなど、限定された作業から徐々にAIロボットが普及する可能性があります。
その時に重要なのは、
「AI技術を持っているか」だけではなく、「AIを現場で使えるか」
です。
産総研も2026年から、NoetraとともにNEDO事業としてフィジカルAI向けマルチモーダル基盤モデルの研究開発を開始しています。
日本全体でフィジカルAIの基盤技術開発が進む中、関西が製造業・インフラ・大学・スタートアップを結びつけることができれば、大きな産業集積になる可能性があります。
大阪・関西万博では「未来のロボット」が注目されました。
しかし、本当の勝負は万博が終わった後です。
万博で展示したロボットを、
「実際の工場で使う」
「物流現場で使う」
「駅や空港で使う」
「発電所やインフラで使う」
ところまで持っていけるかが重要になります。
大阪府もロボット産業のオープンイノベーションを進めており、国もフィジカルAIの基盤モデル開発を支援しています。
個人的には、関西のフィジカルAI戦略は、
「世界最高のAIを作る」ことだけを目標にするのではなく、
「世界最高のAIロボット実証都市・地域を作る」
という方向が現実的ではないかと思います。
大阪・京都・神戸を中心に、製造業、大学、スタートアップ、電力、鉄道、空港、物流などをつなげる。
そして関西で実証したフィジカルAIを、日本全国、さらに海外へ輸出する。
これが、関西のフィジカルAIにおける最大の勝ち筋になるのではないでしょうか。
