王子公園という「より合理的な選択肢」
神戸を代表する近代建築、ハンター邸は、
2025年12月28日に移築のため閉館し、
移築先は北野エリアとされているものの、具体的な場所は未定とされています。
文化財を北野に集約する――
一見すると理解しやすい行政判断ですが、
その前提条件は本当に妥当なのでしょうか。
北野異人館街は神戸を代表する観光地ですが、
来訪者の体験という視点で見ると、明確な弱点があります。
- 最寄駅から距離がある
- 坂道が多く、徒歩移動の負担が大きい
- 高齢者・ベビーカー・インバウンド観光客には厳しい動線
「異人館は坂の上」というイメージが、
そのまま物理的な来訪ハードルになっているのが実情です。
行政はこれまで、
「北野=異人館」という文脈に依存してきましたが、
アクセス条件は時代とともに重視される要素が変わっています。
一方で、王子公園は条件がまったく異なります。
- 阪急「王子公園駅」直結
- 駅を出てすぐに目的地へ到達できる
- 坂が比較的少なく、歩行負担が軽い
これは観光地としては非常に大きな差です。
特に今後は、
- 高齢化
- インバウンド観光の増加
- 短時間・高効率観光
が進む中で、
「駅から近い」「平坦」という条件は、
文化施設の立地として無視できません。
神戸市は王子公園再整備の一環として、関西学院大学を誘致し「王子キャンパス(仮称)」を設置する基本協定を関学と締結しています。
この構想は、大学を公園内に設けることで、文化・教育・都市機能を融合した場所とするものです。
関学王子キャンパス(仮称)は、
- 既存学部の移転や新たな教育・地域連携機能を想定
- 約4,000人規模の学生の集積
- 地域住民への開放機能
などを掲げ、2029年ごろの開学を目指しています。
王子公園は単なる近隣公園ではありません。
- 駅直結という希少な立地
- 坂が少なく、誰でもアクセスしやすい地形
- 神戸都心に近い大規模な公共空間
これは本来、
文化・観光・都市の顔となる用途に使われるべき資産です。
大学キャンパスは価値ある施設ですが、
都市の一等地でなければ成立しない機能ではありません。
大学は「閉じた空間」になりやすい
行政は「地域に開かれたキャンパス」を強調しますが、
現実には多くの大学が、
- 時間帯で利用が偏る
- 一般市民が入りづらい
- 学生中心の内向き空間
になりがちです。
王子公園のような立地に求められるのは、
観光客、市民、高齢者、子ども、インバウンドまでを包み込む開放性です。
大学はその役割を全面的に担える存在とは言えません。
もし「文化」を軸にしていれば選択肢は違った
王子公園は、
- 駅直結
- 平坦
- 緑地と建築の相性が良い
という点で、
異人館や近代建築、文化施設を集約するには理想的な場所です。
ハンター邸をはじめとした洋館群、
ミュージアム、文化イベント、回遊動線――
これらを組み合わせれば、
北野とは異なる「もう一つの神戸の顔」をつくることができたはずです。
関学誘致は「無難」だが「神戸市民全体にとってメリットが見えない」
関学誘致は、
- 説明しやすい
- 反対されにくい
- 目先の経済効果を語りやすい
という意味で、行政にとって無難な判断でした。
しかし都市づくりにおいて本当に重要なのは、
10年後、20年後にどう評価されるかです。
王子公園が
「大学がある場所」
としてしか語られなくなったとき、
この立地の潜在力は失われてしまいます。
結論:王子公園は「使い切れていない」
神戸市が王子公園で関学を選んだことは、
失敗と断じるには早いかもしれません。
しかし少なくとも、
王子公園という都市資産を“使い切る”判断ではなかった
と言わざるを得ません。
文化・観光・公共性――
それらを面で編集する発想があれば、
王子公園は神戸を代表する場所になれたはずです。
行政判断に必要なのは、
前例や無難さではなく、
都市の未来を描く「決断力」ではないでしょうか。
