
中央軍事委員会の異常事態と政権中枢の動揺
中国国防省は2026年1月24日、人民解放軍の制服組トップである張又侠(ちょう・ゆうきょう)中央軍事委員会副主席と、作戦立案・指揮を担う軍の中枢である劉振立(りゅう・しんりつ)統合参謀部参謀長について、共産党が「重大な規律・法律違反」の疑いで調査を行うことを決定したと発表しました。
張又侠氏は、人民解放軍における制服組の最高幹部であり、劉振立氏は作戦の立案・指揮を統括する指揮官トップにあたります。
軍の中枢を担う両者が同時に調査対象となるのは異例であり、中国軍内部の統制や権力構造に大きな影響を与える可能性があります。
「張又侠」「劉振立」の2名の失脚により、人民解放軍は当面の間、大規模な軍事作戦を遂行することが困難になったと考えられます。
とくに、制服組トップと作戦指揮の中枢が同時に欠ける影響は大きく、指揮系統や意思決定の混乱は避けられません。したがって、中国による2027年の台湾侵攻は、現時点では実行が極めて困難になったと言えるでしょう。
しかし習近平は、10年以上前から中央軍事委員会が一時的に機能しなくなった場合でも、自身の命令だけで軍事行動を遂行できる体制を構築してきました。
したがって、現在の混乱は一過性のものであり、今後1~2年程度で軍の命令系統は正常化するとみられます。
張又侠氏の父である張宗遜は、中華人民共和国の「開国上将(大将)」57人の一人であり、習近平国家主席の父・習仲勲とは、国共内戦期に共に戦った戦友でした。
そのため、いわゆる「紅二代(革命元老の子弟)」である習主席と張副主席も、父親同士の縁を通じて幼少期から親交を深めてきた間柄として知られています。
しかし、張又侠氏は75歳で、72歳の習近平より年長であり、必ずしも習近平の意向に無条件で従う「子分」のような存在ではなかったとみられます。この点も、今回の調査決定の背景を考える上で重要な要素と言えるでしょう。
以上を踏まえると、習近平が軍の直接掌握を強化する目的で、張又侠を失脚させた可能性が高いと考えられます。
台湾侵攻を強く推し進める習近平国家主席に対し、張又侠氏は軍事的には実行が極めて困難な作戦であるとして、消極的な立場を取っていた可能性が高いと推定されます。
軍事的に見れば、台湾全土を占領するためには、少なくとも50万人規模の兵力を1週間程度で台湾に上陸させる必要があります。
しかし、そのためには、最短でも約130kmある台湾海峡を越えなければなりません。大規模な上陸作戦には、1万トン級以上の強襲揚陸艦が最低でも50隻程度必要とされますが、中国が現在保有している同クラスの艦艇は20隻前後にとどまります。
さらに、上陸後の作戦を含めれば、海軍・空軍を合わせて100万人以上の兵力動員が必要になると見られます。
加えて、台湾海軍に加え、米海軍や日本の自衛隊が保有する潜水艦による包囲網を突破することは、現実的にはほぼ不可能です。
仮に作戦を強行した場合でも、損耗率は少なくとも30%以上に達すると予想され、軍事的常識に照らせば、作戦の継続は不可能と判断される水準です。
簡単に言えば、台湾侵攻は勝率10%以下の極めて無謀な作戦であり、一定の軍事知識を持つ人物であれば、反対するのが当然だと言えるでしょう。
中国の外交・軍事戦略は、古典である『孫子の兵法』の影響を強く受けていると考えられます。とくに重視されているのが、「戦わずして勝つ」という考え方です。
たとえ戦争に勝利したとしても、自軍には必ず損害が生じます。損害が積み重なれば、軍事力は徐々に弱体化し、その隙を突いて第三国から攻撃されるリスクが高まります。最悪の場合、国家存亡の危機に陥る可能性も否定できません。
こうした観点から、習近平政権も「戦わずして台湾を併合する」ことを第一目標に据えているとみられます。そのためには、実際に台湾に侵攻可能な軍事力を整えておくことが不可欠となります。
実際、習近平は人民解放軍に対し、2027年までに「台湾に侵攻できる能力」を備えるよう命じたとされています。
しかし、軍事専門家の間では、台湾侵攻には1万トン級の強襲揚陸艦が少なくとも50隻必要とされています。ところが、現状で中国が保有しているのは約20隻にとどまり、2027年までに50隻を揃えるのは事実上不可能だとみられています。
このように、習近平の強い命令に対して、人民解放軍が必ずしも全力で応えているとは言いがたい状況があります。
こうした軍内部との温度差や不満の蓄積が、今回の相次ぐ失脚や粛清につながった可能性があると考えられます。
中国中央軍事委員会(7名)一覧
| 状態 | 氏名(日本語) | 習派 | 役職 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 〇 | 習近平(シー・ジンピン) | 〇 | 主席 | 国家主席・党総書記・軍最高指導者 |
| 〇 | 張昇民(ちょう しょうみん) | 副主席員 | 2025年10月に副主席に昇格 | |
| ● | 副主席 | 上将(陸軍出身) | ||
| ● | 〇 | 副主席 | 上将(陸軍出身)・2025年3月から消息不明 | |
| ● | 委員 | 上将(陸軍出身)・統合参謀部参謀長 | ||
| ● | 委員 | 政治工作部主任・2025年6月27日解任 | ||
| ● | 〇 | 委員 | 2025年6月27日党籍剝奪処分 |
2024年末から2026年初頭にかけて、中国の軍最高指導機関である中央軍事委員会では、異例の事態が相次ぎました。委員7名のうち、5名が失脚、拘束、あるいは消息不明となったのです。
その結果、2026年1月現在で中央軍事委員会に残っているのは、習近平(シー・ジンピン)国家主席と、政治工作を統括する張昇民(ちょう・しょうみん)氏の2名のみとなりました。
2024年末から2026年初頭にかけて、中央軍事委員会のメンバー7名のうち5名が相次いで失脚・拘束・消息不明となった。
張昇民
張昇民は67歳で、1978年に中国人民解放軍(陸軍)に入隊しました。2025年10月には、中央軍事委員会副主席に昇格しています。汚職を理由に党籍を剥奪され、更迭された何衛東の後任にあたります。
習近平(72歳)の意向に忠実に従う姿勢、いわば「統制の取りやすさ」が評価され、副主席に昇格した可能性も否定できません。
習近平は、なぜこれほどまでに「台湾侵攻」に固執するのでしょうか。その背景には、単なる国家戦略を超えた、個人的な体験と思想が深く関係している可能性があります。
習近平は、毛沢東時代の文化大革命によって、父・習仲勲が失脚するという経験をしています。その結果、習近平自身も地方に下放され、貧困と屈辱の中で青春時代を過ごしました。さらに、姉が死亡するなど、家族も大きな不幸に見舞われています。母親も連日、人民の前で批判や糾弾を受ける立場に置かれました。
こうした過酷な体験は、習近平の人格形成に強い影響を与えたとみられます。一方で、彼はその原因を生み出した毛沢東思想そのものを公然と否定することはありませんでした。むしろ、「毛沢東を超える存在になる」ことが、習近平の人生の大きな目標になったのではないか、という見方があります。
毛沢東は中華人民共和国を建国しましたが、台湾を統一することはできませんでした。習近平にとって、台湾統一、特に軍事的手段による台湾侵攻は、「毛沢東が成し遂げられなかった偉業」を実現する象徴的な意味を持つと考えられます。台湾を併合することで、毛沢東を歴史的に超える存在になれる――そうした意識が、習近平の内面にある可能性は否定できません。
このように考えると、習近平の台湾政策は、必ずしも合理的な国益計算だけで説明できるものではなく、文化大革命期のトラウマや、毛沢東に対する複雑な感情、さらには個人的な「超克願望」が影を落としているとも読み取れます。
もしこの見方が正しければ、台湾問題は中国にとって単なる外交・安全保障課題ではなく、習近平個人の人生観と強く結びついた、極めて危ういテーマであると言えるでしょう。
近年の中国軍および党指導部の動きを見ると、台湾侵攻をめぐる一つのシナリオが浮かび上がってきます。
まず注目されるのは、中国軍事中央委員会(中央軍事委員会)の人事です。委員7名のうち、相次いで5名が失脚・粛清され、同じ「革命二世代」とされてきた張氏までもが失脚しました。
これは単なる汚職摘発というよりも、台湾侵攻に否定的、あるいは消極的な姿勢を示す人物は例外なく排除するという、習近平の強い意志を示しているようにも見えます。
この一連の動きからは、習近平が「台湾侵攻という選択肢を排除しない」段階を超え、本気で決断に近づいていると読み取ることもできます。
ただし、台湾侵攻は極めて現実的な制約を伴います。軍事専門家の間では、台湾への全面侵攻には、上陸部隊だけで約50万人、海軍・空軍・後方支援を含めると、最大で100万人規模に達する可能性があると指摘されています。
これは歴史的に見ても、ノルマンディー上陸作戦などを上回る、前例のない大規模作戦です。
この規模の作戦を実行するためには、揚陸艦の増強、兵站能力の整備、統合作戦の訓練など、膨大な準備が必要となります。専門家の多くは、最低でも5年程度の準備期間が必要と見ています。
この前提に立つと、中国が台湾侵攻を実行可能な水準まで準備を整えられるのは、早くても2030年前後になると考えられます。
実際、習近平は「2027年までに台湾侵攻が可能な兵力を整備せよ」と軍に命じたとされています。
しかし、その目標が現実的に達成困難であると判断した結果、習近平は軍幹部の大半を失脚させるという強硬な対応に踏み切ったとみられます。
この経緯を踏まえると、2027年までに台湾侵攻を実行できるだけの準備が整うとは考えにくいでしょう。
一方で、習近平(1953年6月15日生まれ)の政治日程と年齢も重要な要素です。
習近平は国家主席の現在3期目(2023年~2028年)にありますが、4期目(2028年~2033年)に入る可能性が高いと見られています。
習近平の年齢(1953年6月15日生まれ)
2026年1月:72歳(現在)
2028年6月:75歳(4期目の最初の年)
2030年6月:77歳(台湾侵攻の準備が整う年)
2033年6月:80歳(4期目の最終年)
2038年6月:85歳(5期目の最終年)
台湾侵攻という史上最大級の軍事作戦を自らの歴史的業績として指揮・決断するには、体力・判断力・権力基盤の面から見ても、80歳前後が限界と考えるのが現実的でしょう。
これらを総合すると、中国が台湾侵攻に踏み切る可能性が最も高まる時期は、2030年から2033年にかけてという見方には一定の説得力があります。
習近平の最終目標は、必ずしも「台湾侵攻」そのものではなく、毛沢東を歴史的に超える存在になることではないか、という見方があります。
もしこの仮説が正しければ、台湾侵攻は「目的」ではなく、「手段」にすぎない可能性があります。
前述の通り、習近平は文化大革命によって、父の失脚、屈辱に満ちた下放生活、家族の悲劇を経験しました。その原因を作った毛沢東に対して、尊敬と憎しみが入り混じった複雑な感情を抱いていると考えられます。
公然と毛沢東を否定できない体制の中で、習近平が選んだ道は、「毛沢東を超える業績を打ち立てる」ことだったのかもしれません。
その文脈で考えれば、毛沢東が成し遂げられなかった「台湾統一」は、きわめて象徴的な目標となります。しかし逆に言えば、台湾侵攻以外の方法で毛沢東を超えたと本人が認識できるのであれば、台湾侵攻に固執する理由は弱まるとも考えられます。
例えば、米中関係において、冷戦期の米ソ関係に匹敵するような「G2(米中二極体制)」を築くことは、毛沢東時代には不可能だった歴史的成果です。アメリカと対等な超大国として中国が公式に認知されれば、それは建国の父である毛沢東を超える業績と見なされる可能性があります。
さらに踏み込めば、仮に米中関係の緊張緩和や台湾海峡の安定に大きく貢献し、国際秩序の維持に寄与した場合、ノーベル平和賞という形で国際的評価を得る可能性も理論上は否定できません。
たとえば、トランプ大統領の任期が2029年1月なので、2028年あるいは2029年に、米中首脳が共同でノーベル平和賞を受賞するというシナリオも、極めて低確率ながら想定の外ではありません。
このように考えると、習近平を単なる好戦的独裁者としてのみ捉えるのではなく、文化大革命という屈辱的な青春時代を背負った「可哀そうな独裁者」という視点から分析し、その承認欲求や歴史的コンプレックスをどう満たせば、最悪の選択を回避できるのかを考えることが重要になります。
台湾侵攻を力で抑止するだけでなく、「台湾侵攻をしなくても、毛沢東を超えたと思わせる選択肢」をいかに用意できるか。それこそが、今後の国際社会にとって、最も現実的で、かつ冷静な「対策」なのかもしれません。
台湾海峡をめぐる緊張は、もはや中国と台湾だけの問題ではなく、米中が直接向き合う大国間対立の核心となっています。
この構図の中で、日本は地理的にも安全保障的にも、極めて重要な立場に置かれています。
特に日本の高市首相であれば、日本は単なる当事国にとどまらず、米中双方にメッセージを伝え得る調整役として機能する可能性があります。
対米関係において、高市首相は日米同盟を外交・安全保障の基軸と位置づけ、防衛力の強化や台湾海峡の安定に対しても明確な姿勢を示しています。
そのため、米国から見れば、日本は価値観を共有する信頼性の高い同盟国であり、日本からの提言は現実的な選択肢として受け止められやすいと考えられます。
一方、対中関係においても、高市首相は中国に迎合する立場ではありませんが、感情的に対立を煽る指導者でもありません。
台湾有事を中国の内政問題として黙認することはしない一方で、軍事的エスカレーションを回避するための対話の重要性を、中国側に対しても冷静に訴える立場にあります。
日本は台湾有事が発生した場合、在日米軍基地やシーレーンを通じて、不可避的に影響を受ける国です。
そのため日本は、「抑止」と「対話」を同時に求める最も切実な当事国であり、この立場から米中双方に現実的な落としどころを模索する役割を担いうるといえます。
高市首相がその役割を担えば、日本は「米国の強固な同盟国」でありながら、「中国にとっても無視できない調整役」という、これまでにない外交的ポジションを得る可能性があります。
