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なぜ伊丹空港は廃止されなかったのか? 関西国際空港と30年の政治・経済史を考察「国と大阪市と神戸市」三重の包囲網

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1994年、関西国際空港(関空)が開港した際、国の基本方針は「伊丹空港(大阪国際空港)の廃止」でした。

伊丹空港周辺では長年にわたり航空機騒音が社会問題となっており、その解決策として24時間運用可能な海上空港・関空が建設されたからです。

しかし、開港から30年以上が経過した現在も、伊丹空港は国内線の基幹空港として存続しています。

なぜ伊丹空港は廃止されなかったのでしょうか。

今回は、その背景について考察してみたいと思います。

 

国(運輸省)による「関空いじめ」と借金漬けの罠
関空が開港した1994年当時、東京の成田空港は滑走路1本で機能不全に陥っており、羽田空港も国内線のみでした。(正確には、旧・中華航空の国際線が1日数便ありました。)
そこへ「日本初の24時間ハブ空港」として関空が誕生したため、運輸省(当時)には「日本の航空の主役が関西に移るのを阻止したい(東京一極集中を守りたい)」という思惑があったと推測されます。
国は関空を国営ではなく半官半民の「民間会社(特殊法人)」組織とし、1兆円を超える巨額の借金を背負わせ、毎年の利払いだけで700億円を超えていました。
さらに、国営なら非課税のはずの固定資産税を民間会社ということで毎年約100億円も課したのです。関西国際空港(関空)は、建設費負担の影響で開港当初の着陸料が成田空港よりも高い世界最高水準となり、航空会社の就航や増便の障壁となりました。
関空の高いポテンシャルは、日本国内だけでなく、韓国の航空政策にも大きな影響を与えました。

実際、韓国の仁川(インチョン)国際空港は、1994年に開港した関西国際空港(関空)を参考に整備され、これを上回る「東アジアのハブ空港」の実現を国家戦略として掲げ、2001年3月29日に開港しました。

このように、関空は海外の大型空港建設にも影響を与えるほどの潜在能力を持っていました。

そのため、当時の運輸省が「関空が発展すれば、将来的に羽田空港や成田空港の地位にも影響を及ぼす可能性がある」と考えたとしても、不自然な話ではありません。むしろ、それだけ関空の将来性が高く評価されていたことを示していると言えるでしょう。

運輸省による「アクセス(なにわ筋線)妨害」

関空の致命的な弱点である「アクセス」を解消するため、梅田と難波を直結して関空へ繋ぐ「なにわ筋線」の計画が当時からありました。これが開通すれば関空の利便性は飛躍的に高まり、伊丹の優位性は薄れるはずでした。

しかし、ここで動いたのは国(運輸省)でした。

運輸省は「なにわ筋線ができると、並行する大阪市地下鉄(御堂筋線)の混雑が17%緩和される」と発表しました。

大阪市地下鉄「御堂筋線」は1933年に開業し建設費の減価償却がほぼ完了しています。そのため、一路線で400億円~500億円という黒字の状態でした。

当時の大阪市交通局は、この巨額の「御堂筋線」の黒字を原資として、バス事業の赤字を補填し、一説には「50歳以上のバス運転手の約3割が年収1,000万円に達していた」とされる高水準の待遇を維持していました。

もし、なにわ筋線が開通し、御堂筋線の黒字が500億円の17%にあたる約85億円減少していた場合、大阪市交通局の収益には大きな影響が及んでいたと考えられます。

その結果、バス運転手などの高水準な給与を維持することが難しくなり、年収1,000万円程度から800万円程度への賃金引き下げを迫られる状況になっていた可能性があります。

このため、自らの縄張りと利益を守るため(市営モンロー主義)、なにわ筋線の計画を猛烈に反対し、約30年間も凍結させたと考えられます。

実際、JR難波駅に直結する大阪市の第三セクターが建設した「OCAT(大阪シティエアターミナル)」を見ると、大阪市が当初は本気で関空アクセス強化に取り組み、「なにわ筋線」の実現も視野に入れていたことがうかがえます。

OCATは単なるバスターミナルではなく、関空と大阪都心を結ぶ交通拠点として整備された巨大プロジェクトでした。

途中で方針転換が行われ、なにわ筋線は建設しないという判断に至っていた可能性が高いと思われます。

 

「国と大阪市と神戸市」三重の包囲網

運輸省(国)は関空に巨額の建設負債や高コスト構造を背負わせ、大阪市は御堂筋線の収益への影響を懸念して、なにわ筋線の整備に慎重な姿勢を取りました。

さらに神戸市は、神戸空港の関空の半額という低い空港使用料を設定し、関空との競争を仕掛けました。

こうして関空は、経営面・アクセス面・競争環境のすべてにおいて厳しい条件に置かれることになります。

その結果、関空の利便性向上は十分に進まず、「大阪都心に近い伊丹空港を存続させざるを得ない」という状況が生み出されたのです。

 

関空アクセスを整備し、伊丹空港を廃港へ

関西の空港政策について議論になると、多くの人が「伊丹空港は便利だから残すべき」と主張します。

確かに現在の状況だけを見れば、その意見は理解できます。

梅田から約30分で到着できる伊丹空港は、ビジネス利用者にとって非常に利便性の高い空港です。

しかし、本当に関西全体の将来を考えた場合、最適解は「関空アクセスを徹底的に強化し、将来的に伊丹空港を廃港にすること」ではないでしょうか。

 

伊丹空港は24時間空港ではない

伊丹空港の最大の弱点は、住宅地に囲まれていることです。

騒音問題への配慮から運用時間に厳しい制約があり、深夜・早朝便を飛ばすことはできません。

また、滑走路の増設も現実的ではなく、将来的な発着枠の大幅な拡大も困難です。

一方、関西国際空港は海上空港であり、24時間運用が可能です。

国際貨物便や長距離国際線の増加にも対応できる潜在力を持っています。

世界の主要都市を見ると、国際競争力の高い都市ほど大規模な国際ハブ空港に航空需要を集中させる傾向があります。

 

伊丹空港が関西の都市開発を制約

伊丹空港の存続による影響は、航空政策だけではありません。

見落とされがちですが、伊丹空港周辺には航空法による高さ制限が設定されており、大阪市内の再開発にも少なからず影響を与えています。

例えば、新大阪駅周辺では建築物の高さがおおむね100m前後に制限されるエリアが存在します。また、梅田エリアにおいても場所によっては180~200m程度が上限となっており、超高層ビル開発の自由度を制約しています。

世界の主要都市を見ると、国際競争力の強化のために駅周辺へ超高層オフィスやホテルを集積させる事例が数多く見られます。しかし大阪では、伊丹空港への進入・出発経路との関係から、高さ制限が都市開発の制約条件の一つとなっています。

もし将来的に航空需要を関空へ集約し、伊丹空港を廃港できれば、新大阪や梅田をはじめとする大阪都心部の高さ制限が大幅に緩和される可能性があります。

特に新大阪駅は、リニア中央新幹線や北陸新幹線の結節点となる予定です。将来的に高さ制限が緩和されれば、東京駅や品川駅に匹敵する大規模な超高層オフィス街へ発展する可能性を秘めています。

伊丹空港問題は単なる空港の存廃ではありません。関西の国際競争力、都市開発、そして将来の成長戦略そのものに関わるテーマなのです。

 

関空の弱点「アクセス」は改善できる
伊丹空港の弱点である「24時間空港ではない」「拡張できない」「大阪市内の都市開発の高さ制限」は改善できません。

しかし、関空の弱点である「アクセス」は解決できる問題です。

なにわ筋線が開業すれば、新大阪・梅田方面から関空へのアクセス時間は大幅に短縮されます。

さらに将来的には、

  • なにわ筋線の高速化
  • 新大阪駅との直結強化
  • リニア中央新幹線との接続

などを進めることで、関空の利便性はさらに向上します。

空港そのものを移転することは困難ですが、アクセス改善は投資によって改善可能です。

もっと先には「空飛ぶタクシー」も視野に入ります。

 

伊丹空港跡地は関西最大級の成長エンジンになる

伊丹空港の面積は約300ヘクタールに及びます。

これは大阪市中心部では確保不可能な巨大な開発用地です。

もし空港機能を関空へ集約できれば、

  • 先端産業集積地
  • 大規模物流拠点
  • 国際研究都市
  • 住宅・商業複合開発

など、関西経済を牽引する新たな都市空間を生み出すことができます。

限られた土地を空港として使い続けるのか、それとも新たな成長拠点として活用するのか。

長期的な視点で考える必要があります。

 

インバウンド時代の主役は関空

今後の日本経済において重要なのはインバウンド需要です。

外国人観光客の多くは国際線を利用して来日します。

その玄関口となるのは関空です。

関西が世界と競争していくためには、国際線ネットワークを強化し、海外との直結便を増やしていく必要があります。

そのためには航空需要を分散させるのではなく、関空へ集約する方が効率的です。

 

伊丹空港の利用者の実態
例えば、東京=大阪の移動の85%は新幹線で、航空便は15%です。

新幹線は最速2時間20分程度で結び、1時間あたり最大12本前後が運行されるなど、利便性において非常に優れた交通機関です。

一方、伊丹空港を利用する場合は、空港までの移動時間や保安検査、搭乗手続きなどを考慮すると、必ずしも新幹線より便利とは言えません。

それにもかかわらず一定数の利用者が航空機を選択するのは、マイルの獲得や航空会社の上級会員資格の維持、あるいは単純に飛行機での移動を好むなど、時間や効率だけでは測れない価値を重視しているためです。

もちろん、そのような選択自体を否定するべきではありません。しかし、関西全体の発展や国際競争力の向上という観点から考えた場合、一部の利用者の嗜好や利便性のために、24時間運用可能な国際ハブ空港である関空への需要集約を妨げ続けることが、本当に最適な政策なのかという議論はあってもよいでしょう。

限られたインフラ投資や都市開発の可能性を考えるなら、個人の好みよりも、関西全体にとって最大の利益を生み出す交通体系を優先すべきではないでしょうか。

 

関西全体の利益を考えるべき時代

伊丹空港の存続は、利用者にとって便利(マイルや上級会員資格維持)です。

しかし、関西全体の発展という視点ではどうでしょうか。

目先の一部の航空ファンの利便性だけでなく、

「関西が世界とどう戦うのか」

という視点が求められています。

関空アクセスを徹底的に強化し、国際ハブ空港として育成する。

そして将来的には伊丹空港を廃港とし、その広大な土地を新たな成長エンジンへ転換する。

インバウンド客12人の消費額は、定住人口1人が1年間に生み出す消費額に匹敵すると言われています。したがって、年間インバウンド客1,200万人は、定住人口100万人が増加したのと同等の経済効果をもたらすことになります。

これこそが、人口減少時代の関西が選ぶべき戦略なのかもしれません。

 

補足:なぜ神戸空港は建設されたのか?

運輸省(当時)は、神戸市が選挙対策などを背景に関西国際空港(関空)建設に反対した経緯もあり、長年にわたって神戸空港の建設に否定的な姿勢を示していました。

しかし、その後、神戸空港の建設は認可され、2006年に開港しました。一部では「当時神戸空港に反対していた運輸官僚が退官したため認可された」との見方もあります。

ただし、関空開港の1994年から神戸空港開港の2006年まではわずか12年しか経過していません。

中央省庁の幹部官僚は退官後も関連団体や企業に天下りするケースが多く、現役官僚も退官後の天下りを確保するためにも「退官した天下り理事」の意向に逆らうことはできません。

そのため、仮に神戸空港建設への方針転換があったとしても、単純に「反対派の官僚がいなくなったから」と説明するのは難しいでしょう。

むしろ、神戸空港の建設を認めた背景には、当初反対していた元官僚が方針を転換した可能性が高いと考えられます。

表面的には方針転換のように見えますが、実は「関空の発展を阻止する」という点で、運輸省官僚の方針は当初から退官後も一貫しています。

 

官僚の考え方

官僚の世界では、東京の中央官庁が政策決定の中心に位置しています。

空港行政においても、首都圏の空港が国内航空ネットワークの中核を担い、地方空港はそれを補完する存在と考えられてきた側面があります。

また、中央官庁では、同期の一人が55歳前後で事務次官に就任すると、他の同期は退官するのが一般的とされています。

そのため、退官後の再就職先を確保することが重要な課題となります。

具体的には、官僚は退官後、2年ごとに天下り先を移動する、いわゆる「渡り」を行い、そのたびに約2,000万円の退職金を受け取ります。

55歳から75歳までの20年間で10カ所の天下り先を渡り歩けば、退職金だけで約2億円を受け取る計算になります。

こうした構造の中で、「関空が首都圏の空港を脅かしてはならない」という発想が官僚組織に共有されているのだと推測されます。

これは過去の話ではありません。現在、成田空港では機能強化事業が実際に進められています。具体的には、2,500mのB滑走路を3,500mへ延伸する工事と、新たに3,500mのC滑走路を建設する工事が行われています。

関西空港では、二期島に本格的なターミナルが建設されていないため、従来の第1ターミナルだけでは増加する国際線利用者に対応しきれなくなっています。

そのため、国内線エリアを縮小・移設して国際線へと転用していますが、その結果として関空の国内線の利便性が低下してしまいました。この不便化により、国内線の利用者が関西空港から伊丹空港へとシフトする現象が起きています。

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